土佐の酒×ロックミュージックな酒屋

ロックと酒のマリアージュ。これは常々僕が、提唱してきたものだが、高知に「これはやり過ぎだろう!」と拍手喝采をしたい酒屋がある。安岡酒店。看板には「ロックと酒のクロスオーバー」というなんとも頼もしいキャッチが踊る。

その名の通り、店内には酒と音楽がおなじだけの重要性を持って並ぶ。酒屋の話なので酒の話から書こう。
安岡酒店は実は創業100年の老舗。現店主のクレイジー、失礼、安岡さんは3代目。今、酒棚に並んでいるのはすべて土佐のお酒という徹底ぶり。この辺りもダイアリー・オブ・マッドマン(オジー・オズボーンのアルバム)、失礼、安岡さんのアティチュードなのだろう。

さて、音楽はといえば、ヴィンテージなギターにアナログなオーディオセットとレコードコレクションに、棚上には1984年から現在までの音楽雑誌、ミュージックマガジンやレコードコレクターズがぎっしり。
「うちにおいておくよりここでみなさんにみてもらったほうが幸せかなと思いまして」。幸せの黄色いハンカチ(トニー・オーランド&ドーン/72年の全米ナンバー1)ばりに確かに幸せ感がある。
この2つが無駄にパラレルワールドで並んでいるわけではない。安岡さんが手書きで発行しているフライヤーには、日本酒紹介の他に、ご自身の音楽ライフのことや、この日本酒にはこの音楽というアドバイスが掲載されている。この音楽に、というのが、またたまらない。
一例を挙げれば、僕が店頭で手に取った、安岡酒店100周年を記念して造ったというオリジナルの日本酒にあわせたのは、マイケル・フランクス。AORの人気アーティストだ。すっと、これですかねえ、と出してきたアナログレコードのジャケットに思わず、うれしい鳥肌が。素晴らしい。

僕はワインとロック、ポップスのマリアージュ、いやここはコラボレーションやらフューチャリングとかがいいのかどうかだが、という提案をし続けてきたが、ここ高知にも同士がいたとは!

 一番好きなのはルー・リードと応えながら、音楽棚には、クラッシュなどのUKパンクに、さきほどのAOR系、ブラック、ファンク、ブルースと幅広い。幅広いが、決してなんでもあり、ではなく、そこには安岡さんの音楽史があるように感じた。神戸での学生時代、そこでであった音楽の衝撃と喜び。少ない小遣いを音楽につぎ込んだ、将来の酒屋の三代目。その思いもじわじわとこの場所から伝わってくる。
ただただ拡散するのではなくしっかりフィネスがあり、芯がある。でもあくまでもさらりと。なんだ、土佐の酒と同じじゃないか。

 

 

旅先でいい酒場を見つけるのは幸せだが、テロワールとストーリーを感じさせる、いい酒屋を見つけるというのも、また幸せなものだ。