コミュニケーション・エンハンサー
& ワインナビゲーター 岩瀬大二の

お酒がとりもつ幸せなリンクのnote book

『リカエスト』
“Liquor-est” rd by daiji iwase



土佐の酒×ロックミュージックな酒屋

ロックと酒のマリアージュ。これは常々僕が、提唱してきたものだが、高知に「これはやり過ぎだろう!」と拍手喝采をしたい酒屋がある。安岡酒店。看板には「ロックと酒のクロスオーバー」というなんとも頼もしいキャッチが踊る。

その名の通り、店内には酒と音楽がおなじだけの重要性を持って並ぶ。酒屋の話なので酒の話から書こう。
安岡酒店は実は創業100年の老舗。現店主のクレイジー、失礼、安岡さんは3代目。今、酒棚に並んでいるのはすべて土佐のお酒という徹底ぶり。この辺りもダイアリー・オブ・マッドマン(オジー・オズボーンのアルバム)、失礼、安岡さんのアティチュードなのだろう。

さて、音楽はといえば、ヴィンテージなギターにアナログなオーディオセットとレコードコレクションに、棚上には1984年から現在までの音楽雑誌、ミュージックマガジンやレコードコレクターズがぎっしり。
「うちにおいておくよりここでみなさんにみてもらったほうが幸せかなと思いまして」。幸せの黄色いハンカチ(トニー・オーランド&ドーン/72年の全米ナンバー1)ばりに確かに幸せ感がある。
この2つが無駄にパラレルワールドで並んでいるわけではない。安岡さんが手書きで発行しているフライヤーには、日本酒紹介の他に、ご自身の音楽ライフのことや、この日本酒にはこの音楽というアドバイスが掲載されている。この音楽に、というのが、またたまらない。
一例を挙げれば、僕が店頭で手に取った、安岡酒店100周年を記念して造ったというオリジナルの日本酒にあわせたのは、マイケル・フランクス。AORの人気アーティストだ。すっと、これですかねえ、と出してきたアナログレコードのジャケットに思わず、うれしい鳥肌が。素晴らしい。

僕はワインとロック、ポップスのマリアージュ、いやここはコラボレーションやらフューチャリングとかがいいのかどうかだが、という提案をし続けてきたが、ここ高知にも同士がいたとは!

 一番好きなのはルー・リードと応えながら、音楽棚には、クラッシュなどのUKパンクに、さきほどのAOR系、ブラック、ファンク、ブルースと幅広い。幅広いが、決してなんでもあり、ではなく、そこには安岡さんの音楽史があるように感じた。神戸での学生時代、そこでであった音楽の衝撃と喜び。少ない小遣いを音楽につぎ込んだ、将来の酒屋の三代目。その思いもじわじわとこの場所から伝わってくる。
ただただ拡散するのではなくしっかりフィネスがあり、芯がある。でもあくまでもさらりと。なんだ、土佐の酒と同じじゃないか。

 

 

旅先でいい酒場を見つけるのは幸せだが、テロワールとストーリーを感じさせる、いい酒屋を見つけるというのも、また幸せなものだ。

enjoy a fragrance

ワインの試飲会では、香水を遠慮している。いや、遠慮というよりは禁止。ワインが好きということは、やはり香りが好きで、香りが好きなら、香水も好き。だが、この2つは場面としては両立しない。場面としては両立しないのだけれども、香りで自分を幸せにしてくれたり、浮き立たせたり、励ましてくれたり、ときには、もしかしたら自分は格好いいんじゃないか、なんて勘違いもさせてくれる。もちろんデートの場面なら、相手の香水の香りひとつで勘違いもさせてくれるし、それはオーダーしたワインの香りも一緒だ。官能的でも健康的でも、どちらでもいい。いずれにしてもお気に入りの香りを見つけることは、とてもハッピーな冒険だ。

香水とワイン。その近くと遠くて遠くてちかくあったらいいな、という関係性を実に見事に、実に鮮やかに納得させてくれたのが、『JO MALONE LONDON』のライフスタイル・ダイレクター、デビー・ワイルドさん。

「これがあなたの既成概念の中の心地よい香り。そしてこちらは、あなたのワイルドな面、既成概念にないもの。だからもしかしたら今日は気に入らないかもしれない。だから今日はこの香りの記憶だけを覚えておいてもらえればいいわ。それはね、私がバローロを最初に飲んだときと同じ。あのころ私は、なにこれ?いやだわ、ぜんぜん私にあわないって思ってたの。でも、今は大好きでそればっかり(笑)」

ワイルドさんが考える僕のワイルドな部分ですね、という軽口は軽く受け流されたけれど、香りを巡る冒険にお付き合いいただいた。叙情的ながら知的、知的ながら優しい微笑み。

本日お披露目のミモザ & カルダモンにライム バジル & マンダリンとウッド セージ & シーソルトをその場でコンヴァインしたものをふりかけていただくと、そこに現れたのは、カリブ海のブリティッシュコロニアルガーデンのモーニング&ミッドナイト。鳥のさえずりから虫のコーラスまで。複雑という漢字二文字よりも何かもう少しロマンティックな言葉を捜したいのだけれども。

ボトルに詰まっているのは思い出。
たくさんのメモリーがかぎわけるセンスと能力にかわる
パーソナリティ、オケージョンにあわせて使うことで、新しい経験になる
はじめはシンプルなもの、それから複雑なものへと進むほうがわかりやすい
場面、そこにいる人、食事…そういうものとのハイブリッドで楽しめる

ワインの楽しみと同様の言葉が心地よい。
ある香りに、湿った草の上に贅沢にカベルネフランをを注いだような…そんな例えにも、おもしろいわ!私だったら…そうね…と無邪気にメモリーの引き出しを開けるデビーさん。ライフスタイル・ダイレクターという肩書きに納得。

もちろん、そうだとしても試飲の場所にふりまくことはないけれど、好きな香りと好きな料理と好きなワインと、そして一緒にテーブルにいる人。オケージョンは?場所は?組み合わせはいくらでもある。幸せな香りの冒険。ワインも香水も、大いに楽しもう。

たった12人だけの素敵で特別な会にお呼びいただいたのは、食と美の世界で多彩な活躍をされている沢樹舞さん。料理やワインの仕事のために香水は使わないが、「ジョー・マローンだけは特別」。ブランドの世界を日本で体現する一人。


The Rose of happiness

ワイン関連のキュレーション担当しているぐるなび運営サイト『ippin』3月2日公開分で、レバノンワイン、シャートー・クーリー紹介した。その冒頭にこんなことを書いてみた。

 

~ワインを飲みながらワインいついて語るのは楽しいものだけれど、ワインだけの話に終始するのは楽しくないし、なによりも偏愛過ぎるワイントークはワインの邪魔になるし、ワインを飲む時間を不幸せにしてしまう…というのが僕の変わらぬ思い。時には馬鹿話でもいいし、時にはしんみりした話でもいい。そして時には、ワインのその裏側にある世界に思いを馳せると、思わぬ発見がある。その出会いがまたワインを楽しいものにしてくれる~

ニュージーランドワインを飲みながらラグビーを語り、シャンパーニュを飲みながらツール・ド・フランスを語り、イングランドワインを飲みながらビートルズを語り、ニューヨーク州ワインを飲みながらブルックリンの最近を語り合う。ワインそのものの話はスパイスに。ワインを通じてかの地を知り、ワインを通じて文化や歴史やそこで活動する人の今に思いを馳せるのも、ワインの楽しみだと思っている。

そこで、中近東ワイン。フランスやイタリアをオールドワールドと称するワインの世界。ならばこちらは、エインシェントワールド、いにしえのワインの世界。聖書の時代から続くワインの歴史だ。中でも以前このブログでも取り上げたレバノンワイン。産地はベカー高原。世界でも有数のローマ神殿跡である世界遺産バールベックなど古くから、歴史、政治、軍事の重要拠点として世界史、近現代史で知られたこのエリアは、一方で肥沃で幸せなワインの土地。レバノンの気候、風土、歴史、そして今。ニュースや歴史の勉強、さらにゴルゴ13のエピソードぐらいでしかなじみがないせいか、ステレオタイプなイメージだけで語ってしまうこともある。

ベカー高原、シャトー・クーリーのワインメイカーであるジャン・ポールさんと、来日中にお話しする機会を得た。彼が自分のスマホで見せてくれた1週間前の冬のベカー高原の画像に、僕は驚きの声をあげた。雪景色。それは12月に弘前で見た、2月に富山で見たあの白と銀と群青の空。積雪は1mにもなるという。幻想的な世界。中近東に対する多くの日本人のイメージと違い、高原の緑、夏のさわやかな風、そして冬の静寂な世界。

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父上はレバノン人、母上はフランス・アルザス出身。「動物のお医者さん」と「うちのワイン」という選択からワインメイカーへの道を選んだジャン・ポールさん。その理由のひとつは、生まれ育ったこのベカー高原の恵みだったのだろう。

西に地中海を望み、緑をもたらすたくさんの雨を、ちょうどよい具合にさえぎるレバノン山脈、東に砂漠地帯の熱気と乾燥を適度に和らげる東部(アンチレバノン)山脈に挟まれ、温暖な夏と冬の雪の恵みの差、ぶどうにとってすばらしき昼と夜の寒暖の差。美しい水と健やかな風。その恵みを得られるテロワールをジャン・ポールさんは「聖テレーズからの贈り物」と「小さき花のテレジア」として慕われるフランス・カトリック教会の聖人に例えて語る。フランスで醸造学を学び、故郷に戻ってみればそこにあったのは、自分のワイン作りで求めていた絶好の環境。

そのテレジアが抱えるバラをモチーフにした「サント・テレーズ」(上部写真左)。
清らか、でもしなやかで強靭な芯を持つ赤ワイン。慎ましやかな飲み口ながら静かに幸せな余韻が続く。口当たりのやさしさと飲みやすさの中で、じわじわと、奥底に秘められた、清らかな生命力を感じ始めたら、もう止まらない。馬鹿騒ぎの夜ではなく、大切な友人や家族との休日の夕方に。ベカー高原の水と空気と緑の豊かさと健やかさを存分に味わえる1本。軽やかな料理が並ぶテーブル。キッシュ、かわいらしい赤いフルーツの盛り合わせ、脂の強くないハム、シンプルなフムス(中近東のソウルフード的ヒヨコ豆のペースト)を、ちょっとトーストした薄切りのバゲットで。カラドック80%/ピノ・ノワール20%。

ジャン・ポールさんのこの地の恵みを生かした挑戦と情熱は国際品種の組み合わせで、重厚で、しかし、心地よいのみ口の「サンフォニー」にも現れる(上部写真右)。シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン25%ずつ。レバノンという国の多様性なのか、ジャン・ポールさん自身の多様性なのかはわからないのだけれど、こちらはフランスのいわゆる重口ワインの世界。どしっと低音が効いた第一印象だが過剰な装飾はない。雄大でスペクタクルな交響楽だけれど、激しい旋律ではなく緩やかなグルーブが高まっていく。辛かったけれどやりがいのある仕事を終えた夜。じっくりかみしめ、そして明日の元気に。信頼できる仕事仲間、やりきった仕事仲間、邪さのない異性がその仕事仲間にいればなおさらいい。さらにシンプルな味付けでそのもののうまみをじっくり味わえる厚切りの肉があればなおさらの至福。

アルザスに思いを馳せた白ワイン、ピノ・ブランやゲヴュルツトラミネール…。テクニカル・ディレクターとしての技量をまざまざとこれらアイテムで見せてくれるジャン・ポールさんだが、会話の中にテクニカル面での押し出しは強くない。もちろんテクニカル面で話が通じるジャーナリストの方であれば、きっとその話題で饒舌になるだろう。それだけの技量と興味深い挑戦心にあふれたワインメイカーだ。しかし、僕に対して彼が話題として選んでくれたのは、ベカー高原という魅力、レバノンという土地の恵み。

ワインを通じて、レバノンのテーブル、雪のベカー高原へと思いを馳せる。そういう幸せな時間がワインと、ワインを通じての出会いにはある。

商品のお問い合わせは
http://www.vinsdolive.com/ja/
Vins d'Olive


Japanese wine update #3

富山でワイン?できるわけがない、と思っていた。半信半疑というよりも全く期待せずにワイナリーを訪れた。誰がこの場所でワインなど造るのだろうか?その疑問は丘を上がるごとに思わぬ期待に変わっていった。富山県、氷見市。全国的には寒ブリで有名な街だ。港の方から丘の上に上がると、美しく整備された緑豊かなブドウ畑にそよぐ穏やかな風。単なる極寒の海風の場所かと思っていたが、湾から緩やかに上がってくる風はゆるやかで、優しささえ感じる。聞けば寒ブリでにぎわう湾は、マリンスポーツも楽しめる海だという。しばらく湾を眺めているともうひとつの風を感じる。立山連峰から吹き下ろす風だった。富山県は南側にそびえる3000m級の立山連峰から、豊かな漁場であり深海まで一気に連なる海に挟まれている。豊かな水はもちろんだが、この丘で感じるのは「風の豊かさ」だった。海からの優しいミネラル、立山からの冷涼で凛とした空気。ワインのテロワールと言えば土壌に着目するのは当然ではあるが、この地で感じるのは風とワインの関係だ。

例えば、南仏のワイン名産地ラングドック。その北西部にあるリムー地区。名門、俊英が続々とこの地に目をつけはじめた一つの理由は、地中海からの温暖な風と、ピレネー山地からの冷涼な風にある。冬には地中海からの風は激烈な寒風となって襲い掛かってくるが、今度はピレネーの雪が優しい風を与えてくれる。

この地で、彼らが目指すワインは、おいしいことはもちろんだけれど、「氷見である意味」。それは氷見の魚に合うワインだ。このワイナリーの経営母体は地元の魚を扱う業者。スタッフの出身もこの会社だ。栽培責任者は陽気に笑う。「僕たちは魚屋ですからね。ワインのことは分かんないんですよ」。しかし10年にも満たないストーリーの中で、彼らは素晴らしい歩みを重ねてきた。志半ばで亡くなってしまったメンバーのために、氷見という街のこれからのために。寡黙でシャイな醸造責任者は、手ごたえを口にしながらも悩み続けている。試飲する人たちの「おいしい」の言葉に表情を緩めながらも、頭の中は次のアイデアでいっぱいのようだ。

試行錯誤の成果が着実にアロマと味ににじみ出てきたシャルドネ、懐かしさの中に洗練が見え始めたソーヴィニヨン・ブラン、すでに豊かなスパイスと果実味で「日本離れ」しはじめてきたメルロー、儚さと繊細さが新しい個性をもたらし始めたカベルネ・ソーヴィニヨン、その場の空気を優しく変える力を持ったロゼ…。これらの個性が、ワイン単独というだけではなく、魚介の燻製と見事な調和を見せる。結果としてのマリアージュではなく、狙いとしてのマリアージュ。その狙いこそが、この地でワインを生む意味。

まだラベルが貼られていない2013ヴィンテージのシャルドネ。そこからにじみ出てきた氷見のミネラル。酸とか旨みとか、それだけではなく、そこには「人の想い」というテロワールの一要素を感じることができた。錯覚ではない、と思った。

says farm website


Beaujolais nouveauという祝祭日

熱狂でもなく嘲笑でもなく。ボージョレ・ヌーヴォーは、1年に1度のワインの楽しい祝祭日。ただただ、それでいいんじゃないか。静かにしみじみとでも仲間と楽しくでも、パーティイベントに出かけるのもいい。いわゆるワイン愛好家の中でも、ヌーヴォーの日は穏やかではない。嘲笑派と熱狂派とでもいうのだろうか。僕は、そのどちらも肌に合わない。百年に一度とか、近年稀にみるとか、そういうキャッチーな言葉を巡っての論争や嘲笑などどうでもいい。そこに、いつもの生産者が、いつものように、今年も新しいワインを届けてくれる。私はこれが好きなんですという酒屋さんの微笑みを見ることができる。ブドウの収穫が足りない年に、その生産者は、さてどんなワインを作るんだろう?100年に1度と喧伝される年にあの生産者は自分のスタイルを崩さずにおもしろいワインを届けてくれるんだろうか?そんなわくわく感で、11月第3週木曜日を迎える。七草粥でも土用の丑の日でも初詣でもいいし、4年に1度のワールドカップを熱狂と嘲笑で迎える人が、今度は立場を入れ違えてハリーポッターやアニメの新作に対して熱狂や嘲笑の立場を変える。どっちだっていいじゃないか。敬老の日に先達に感謝するように、クリスマスにケーキを買うように、ボージョレ・ヌーヴォーという祝祭日。楽しく迎えようじゃないか。

という僕の気持ちを伝えながら、楽しんでいただきたいな、ということで、今年も、僕のサロン『白金高輪14(キャトルズ)』でささやかなボージョレ・ヌーヴォー会を開いた。ラインアップは以下の通り。

ジョルジュ デュブッフ ボジョレー ヌーヴォー (コノスル ピノ・ノワール 2013)
バラック・ド・ラ・ペリエール ボジョレー ヌーヴォー
バラック・ド・ラ・ペリエール ボジョレー・ヴィラージュ ヌーヴォー
ドメーヌ・ドゥ・ラ・マドンヌ ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボー
シリル・アロンソ P・U・R ボージョレ・ヴィラージュ・ヌーボー
ポール・サパン ボジョレー・ヌーヴォー キュヴェ・トラディション
フィリップ・パカレ ボジョレー・ヴァン・ド・プリムール
ボージョレ・ヴィラージュ・ヌーヴォー ルイ・テット キュヴェ サントネール

今回は、ボージョレとボージョレ・ヌーヴォーとどう違うの?ヴィラージュってなに?といったことから、ワインメイカーのスタイルによってこれだけヴァリエーションがある、そして和食や豚肉その他気軽なマリアージュの紹介など、そしてなにより僕が思うヌーヴォーとボージョレに対する想いをもって案内させていただいた。
いわゆる王道的なデュブッフとチリのピノ・ノワールの飲み比べ(ブラインド)、同じワインメイカーのボージョレとボージョレ・ヴィラージュの飲み比べから、2つの信頼できる酒屋さんの推薦による4本、最後に、ルイ・テットを心行くまで…
フィリップ・パカレは「来年の今頃このワインを飲んでもいい」のけぞる出来栄え、マドンヌのまろやかなバランス、シリル・アロンソの鮮烈さがチャーミングなアシッド、ポール・サパンの思わず「あ、旨い」というシンプルな感激…。

あんなもの、でも、絶対飲むべき、でもない、もっとリラックスした気持ちで。ワインを口にしたときに口にする感想以外は、テーブルで華が咲くのはお互いの今の話だったり、新しい交流だったり。ボージョレ・ヌーヴォーはプロでもない限りは眉間にシワなんか寄せて飲んじゃだめだ。明るい笑顔、楽しい話題、幸せなテーブルが生まれる、年に1度のワインの祝祭日。繰り返して書くけれど、ただただ、そんな日でいい。


今回は2つのメディアでボージョレ・ヌーヴォーについて紹介させていただいた。あわせてご覧ください。

レッツエンジョイ東京・ボジョレー・ヌーボー特集
ワインの目利きに聞くおすすめヌーボー
http://season.enjoytokyo.jp/beaujolais_nouveau/recommend/index.html
3軒の酒屋・ワインショップの取材。アサヒヤワインセラー(江古田)さん、青山三河屋川島商店(表参道)さんのおすすめを今回のヌーヴォー会で提供。


ウーマンタイプ
「今年は美味しいね」なんて言ってない?知らなきゃ恥ずかしいボージョレ・ヌーヴォーの基礎知識

http://womantype.jp/mag/archives/46987
こちらでワインをかじったからこそやらかしがちな間違いについてコメント。もちろん知識のない方、これから飲んでみたいという方ははずかしいなんておもわず自由に飲んでいただければ!


VINEXPO NIPPON TOKYO 2014

11月1日(土)2日(日)の2日間。業界の期待と、逆に懸念と。いろいろな声が聞かれたイベントだった。確かにプロ向けのワイン会は基本平日の昼間が中心で、さらにいえばプロからも料金(4,000円)を徴取するというのは、日本のワイン業界の慣習からすれば、いろいろな意見があってもしょうがないことなのだろう。確かにいわゆる集客という意味では、一般の方も入れるようなイベントに比べて、そして平日昼の業界向けのそれに比較して、「寂しい」という声も聞こえてくる。でも…と、ここでどっぷりと業界の人間ではないからいえることなのかもしれないけれど、おかげで、ゆっくりとひとつひとつの「わりと本気で売りに来た」メーカーの方々と話し込むことができた。実際2日で約6時間いてもようやく半分回れた程度。この客数だからこそ、そして、試飲という行為が目的ではなく、ビジネス寄りの空気感は新鮮だった。

キーワードだけでいえば、新時代のエレガントなラングドック、抜群にいやらしいシャスラ、狂乱と素朴のロワール、頑固おやじの心優しきシャンパーニュ、男の苦味と甘みをまとったポルトガルのガーリーワイン、チャーミングなタヴェルに、オートクチュールなヌフ…なんてフレーズで面白ワインとの発見はつらつら書けるけれど、そのひとつひとつと、こうした博覧会形式の中で、じっくりと対面しながら世界を掘り下げられたのは嬉しく、楽しい体験だった。コンサル的にもプレス的にも紹介したいワインとメーカーの数々。様々な打ち合わせやメディアの中で、その熱意と哲学も含めて紹介していければと思います。

■さまざまなカンファレンスやセミナーも同時開催。その中からドメーヌ・ドゥ・バロナークのマスターセミナーに参加。昨年、リムーというテロワールの素晴らしさについてお話をうかがったディレクター氏と再会。今回は垂直試飲を含めての機会。07の卓越に興奮


女性のための本格焼酎・泡盛イベント

10月20日(月)『anan本格焼酎・泡盛倶楽部NIGHT 2014』(銀座クルーズ・クルーズ)のMCを担当しました。
anan読者50組100名をご招待して行われたこのイベントは、日本酒造組合中央会さんのプロモーションの一環として、anan誌上にて、3号(各号2ページ、隔週掲載)にわたって紹介した、焼酎を知って使って女子力アップというテーマの記事のリアルイベント。こちらでメインナビゲーターとして登場いただいた、はるな愛ちゃんが当日も登場。

読者人気も高く、愛ちゃんの登場で会場の熱気も一気にアップ。焼酎は普段あまり飲まないという方から、もともとお好きな方まで、楽しんでいただけたようです(こちらの詳しい模様は、ananさんにレポート記事として紹介されるようです)。
僕はMCとともに、会の途中で「では、本格焼酎・泡盛ってなに?」というお酒の基礎知識的なところを、短時間でしたがプレゼンさせていただきました。
お酒のある幸せな場所、テーブル、空間のナビゲーターとして、今後も、様々なお酒を、様々な人に紹介していきたいと思います。


ダウンロード
プレゼン内容pdf
焼酎には3つの分類がある。その中で本格焼酎・泡盛は、日本のテロワールの「スピリッツ」を感じられるお酒である、ということだけ覚えて帰ってくださいね、という内容です。
anan焼酎イベントデータ_02.pdf
PDFファイル 823.3 KB

※はるな愛ちゃんとともに、会場の女性たちから「素敵~」と声がかかったanan編集長の北脇さんからも、女子力アップのヒントが


そしてこの日のアフターで…
このイベントには、芋・米・麦・黒糖・泡盛とその他の素材ゾーンにわかれて60以上の焼酎がずらり。なんともぜいたくな試飲が可能。その中で、鹿児島より駆けつけてくれた大口酒造さんと、会が終わった後にしばしの焼酎談義。大口酒造産の焼酎と言えば『黒伊佐錦』。この焼酎を水割、ロック、お湯割りで堪能。
その後おつかれさまの夕食ということで、僕の本格焼酎の指南役でもある、六本木にある『九州鳥酒・とりぞの』へ。実はこの日の『では、本格焼酎・泡盛ってなに?』のプレゼンシートにも、「つまり本格焼酎・泡盛を美味しく飲む場面っていうのはこういう美味しい料理がある店」ということででかでかと紹介させていただいたのが店主・奥園さん。そこで「素敵な夜の終わり、リラックスしてうまい水炊きを食べながら飲みたい芋」とリクエスト。すると出てきたのは、なんと『黒伊佐錦』!店主曰く、全くの偶然。こういう幸せな連鎖も、いいお酒がうむ世界。という実感。

九州鳥酒 とりぞの 六本木
http://r.gnavi.co.jp/6640rssr0000/


Japanese Wine up-date #2-1

「日本ワイン」というカテゴリーが2005年あたりを境に僕の中で、その概念というか現状をアップデートし続けなければいけないものになった。お土産葡萄酒レベル、という認識を変えなければいけない、真摯で素晴らしい革新、着実な歩み…それらを目の当たりにして、斜に構えて「日本ワインなんてね」とは言っていられなくなった。そのあたりの経緯と敬意についてはまた改めて書くことにするが

例えば熊本ワインという静かで幸せな衝撃

一方で、日本ワインが新しいボルドー、ブルゴーニュになって欲しくないという、ある意味の危機感がある。
どういうことかと言えば、日本ワインが少しずつマニアアイテム、人とは違うことを語れる自分、これぐらいのことを知らないでワインを語って欲しくないなあ、という、いわゆる、僕が嫌悪している排他的ワイン文化の格好のアイテムになりはじめているんじゃないか、という危機感だ。日本のワインを日本人が、日本に住む人たちが気軽に楽しみ、大らかに語り、もっと親しみ、その中で素晴らしいクオリティを評価する。そのあたりまえの(僕はそう思っている)幸せが、少しずつ離れていくような悪寒。

それを幸せに引き込むために必要なのは、ワインそのものへの理解以上に、ワインを楽しむ場、なんだろうと思う。気軽に飲める場であったり、ちょっと心地よき緊張感の中で味わったり。一人の自分に返る時間、大切な人や家族と過ごす幸せな時間にあったり。日本ワインをこうした中で楽しむことで、日本ワインが僕たちにとって幸せな存在であり、その裏には素晴らしいクオリティ、ワインメイカーたちの努力があるということが身を持って理解…いや、感じることができるんじゃないかと思う。

その場所として、「リゾート」というキーワードが浮かび上がる。大切な人と開放感の中で、でも上質な空気の中で素晴らしいもの、こと、と、出会う。
その出会い、「星野リゾート リゾナーレ 八ヶ岳」での、日本ワインのプレゼンテーションで、実感した。
都心から電車で2時間。高速を使えば心地よいドライブの距離。日常から切り離され過ぎない、都会の匂いを少し残しながらの非日常。隔絶された場所で飲むワインではなく、日常に少し五感を残しながら楽しむ方が、ワインをもっと身近な存在に感じられる。

ディナーは、メインダイニング「OTTO SETTE」。「Vino e Cucina」という、日本ワインと料理のコラボレーションメニュー。前菜からデザートまでの10皿にそれぞれ違う日本ワイン10種類がグラスで提供される、いわゆるテイスティングメニューを楽しんでみた。

甲州市、北杜市、甲斐市…八ヶ岳のリゾートらしく、この日のワインはすべて山梨県産。ドライで爽やかなロゼでスタートし、山の旨みがたっぷりと、でもかわいらしく詰まった野菜のミネストローネで胃袋が笑顔になると、ここから

中央葡萄酒のセレナ・ロゼへ。テーブルを優しい表情にするロゼ。豚肉のリエットとゴルゴンゾーラのムースには、甲斐市・敷島酒造の飾らない純朴なソーヴィニヨン・ブランでカントリーサイドなほっこりする取り合わせ。小松菜とキャビアを使った冷製カッペリーニには、原茂ワインの樽熟甲州で、爽快に地の力と深みを…と、この後も日本ワインと洗練されながらどこかほっこりするイタリアンとの饗宴が続く。ゴージャスでもエレガントでもなく、慎ましやかな幸せ。これも日本ワインの現在のアドレス的魅力。これにお皿も、心地いい。ドレスアップよりも着なれたジャケットや少しだけ開放的なワンピースで。メインの牛肉のロースト 赤ワインのソースに、このリゾートからほど近い、ドメーヌ・ミエ・イケノ ピノ・ノワール2011。日本ワインの究極ともいえる品の良さと、とても愛らしい儚さと最後の最後に感じられる芯の強さと。爽やかで心地よい時間の最後に、牛肉のローストと共に送られたメッセージは、日本ワインとガストロノミーの関係の頼もしい可能性。最後は、ここ北杜市で作られる白州のハイボールを、軽やかなグラッパ代わりにして…。

他にも、プールやワインの葉を使ったスパなどからあがった午後のリラックスしたひとときを、山梨と長野のワインと過ごせる「YATSUGATAKE Wine House」で。日本ワインの素晴らしいプレゼンテーションの場。少量ずつたくさんの日本ワインを楽しめるプリペイドカード式のサーバーがあり、比較というよりは、好奇心の赴くままに多彩な個性を楽しむことができる。

日本ワインはこうあるべき、とか、どこかと比較して論評して…とか、そういう余計なことは考えなくていい。適度にリラックスして、適度に日常も思い出して。現実的には都心から1泊2日という休日ほど、むしろ、その場所にも仕事は追いかけてくるだろうし、部屋でノートPCを広げて仕事の進捗を確認してしまう時間もあるだろう。でも、それでいいんじゃないか。無理にリゾートライフを楽しもう!と思わなくていいし、無理に日本ワインを好きになる必要もない。ただ、いつもより少しだけ心のネクタイを緩め、思考のボタンを2つぐらい外す。そんな場所でこそ(それが都市に近いリゾートのあり方だと思う)、日本ワインの豊かさ、素敵さを素直に感じられるんじゃないだろうか。

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星野リゾート リゾナーレ 八ヶ岳
公式サイト:http://www.risonare.com/index.html
※本文で紹介したメニューやワインは時期ごとに変更になります。

その当たり前は、当たり前ではない

セパージュの玉手箱(コフレ)~シュッド・ウェストワイン プレスランチ@ターヴル・コンヴィヴィアル。

 

フランス南西部(シュッド・ウェスト)エリアのワインの基本的な情報と僕の見解は、昨年のこちらのエントリーにて。

多様性という名の幸せ

いつでも僕のワインへのアプローチ、そして楽しみ方を伝えるヒントを教えてくれる場所。それがこの南西部地域のような気がしている。

今回も石田博ソムリエのスピーチの言葉を引用する。「日本のワイン好きの方に、デュラス(南西部のブドウ品種)のワインをおススメすると『マニアックだね』とおっしゃる。でも、南西部ではマニアックではなく、日常のワインなんですよね」

そう、確かに南西部のワイン、そのブドウ品種は多彩すぎてつかみどころがない。今回もフランス南西部ワイン委員会(以下IVSO)のプレゼンテーション資料に記された12の主要品種の、どれも日本においては「マニアック」と称されるものだろう。カベルネ・フラン、マルベックは、それでもまだ知られている方だろうけれど、コロンバール、デュラス、フェール・サルヴァドール、グロ・マンサン、ロワン・ド・ルイユ、モーザック、プリュヌラール、ネグレット、プティ・マンサン、タナあたりの品種を、よほどのワイン愛好家でもない方が、常識的に知っているなんてことはありえない。そもそも、他に明確な比較対象があって、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンが好きだ、という飲み方をされている方ばかりでもないだろう。そんな日本のマーケットにおいて、いわゆる日本のワイン好きがマニアックだと思うような地域のワインが広がるものだろうか?IVSOのゼネラル・マネジャーであるポール・ファーブルさんに意地悪な質問をしてみた。

「日本のワインファンは南西部のワインについてはマニアックであり、多様過ぎて避けて通りがちです。シンプルな中での好奇心。つまりはブルゴーニュであればまずピノ・ノワールという一応の唯一無二のぶどうがあって、その先に複雑だけれど魅力的な村名や造り手がある。ボルドーならせいぜい3種のブレンドと右岸左岸、そこにシャトー名がのっかる。実はわかりにくいものを単純化できる能力は高いけれど、南西部はそもそも多様過ぎてわからない。日本で成功できますか?」
「多様性はマーケットが造ったものではなく、我々の事実です。それらは私たちの毎日の中にあります。そして魅力であり誇りです。それを曲げてまで展開する意味はありません。真摯に、日本の皆さんに、この多様性の魅力を、いろいろなかたちで知っていただきたいんです」

それでいい、と僕も思う。冒頭の石田ソムリエの言葉。
日本のワイン愛好家にとっては南西部ワインはマニアックだけれど、南西部の中心地、トゥールーズのビストロでは、デュラスもグロ・マンサンも「俺たちのワイン」だ。グルジアの飲んだくれのお父さんが飲んでいるワインも日本ではマニアックでも彼らにとってはワンカップの日本酒同様の喜びの酒だ。

甲州?知らねえよ。サンジョヴェーゼ?いいから、このワイン飲めよ。うまいから。セパージュ?なんかひつようか?そういうの?おーい、ぶどうなにこれ?あー。デュラスだってよ。

こういう楽しみもワインの大いなる楽しみだし、その土地を味わう幸福だと思う。南西部ワインを難解なパズルのように解く必要はない。エキスパート試験の教材にはなるかもしれないけれど、堅くならなくていい。石田ソムリエが今回のプレスランチの場として自らプロデュースするビストロを選んだ理由。
「みなさんがよく食べるビストロ料理の定番、そのほとんどが南西部の料理。現地のように、どの皿に合わせるというよりも気軽に食べて飲んでいただきたい。だから南西部ワインなんです」

フランス国内においてもリーズナブルなワイン。ブドウ品種で選ぶのではなく、気分で、食事で選ぶ。それが結果、モーザックとなんかとなんかのブレンドだった。次これでもいいよな。そういうワインの楽しさがあっていい。南西部ワインはマニアックではない。マニアックにしているのはワインに対する知識だ。品種を知るのはあくまでもヒントでいい。好きなワインを見つける一つのアプローチであればいい。プロに任せよう。いや、できればプロの方もマニアックの一言で片づけないで欲しい。そこに、お客さんの求める物があるのかもしれない。

豊かな文化へのリスペクトは幸せだ。そこにあるブドウやワインを、マニアックと片付けるのは、どうにも、つまらない。今日であったワイン、幸せにしてくれたワイン。それはもうあなたの中ではマニアックワインではなく、あなたにとってのスタンダードワインなのだ。

 

 

出展した6つの生産者・輸入元のひとつ『ジョルジュ・ヴィグルー』のエクスポートマネジャー・ジャンマリー・シュアヴェさん。マルベックの名手であるこちらは、同じく近年マルベックに情熱を燃やす名コンサルタント、ポール・ホッブスとのジョイントをスタート。シャトー・ド・オート セール イコン W.OW. 2009.エレガントでスタイリッシュなカオール、という東京向きの1本をひっさげてきた。

プレモン・プロデュクターのアナイス・プレアンさんは、南西部の民族衣装のベレー風帽で登場。渋谷のビストロ、南西部ワイン…このファッションはかっこいいかも。AOCサンモンのグロ・マンサン、プティ・マンサンブレンドの白は、アロマと舌触りにわたあめのような感覚のあと、レモン&グレープフルーツの酸。一部を新樽でおりとともに熟成することからのほのかなバター感とあわさると、懐かしのキャンディ、チェルシー・バタースカッチの感覚が。


美しき哲学の、美しき伝導

日本におけるダイレクト・セールス分野で、名門テタンジェとピーロート・ジャパンがパートナーシップを締結。そのスタートにあたって、当主ファミリーから輸出部長であるクロヴィス・テタンジェ氏が来日。ピーロート・ジャパンが展開する4アイテムと和食の饗宴の中、改めて、次代の名門を率いるクロヴィス氏の考え方と、テタンジェがもたらす幸せが日本で広がることへの期待を感じた。

クロヴィス氏…と氏をつけて書くよりも、若き世代の代表であり、数度その哲学をシェアさせてもらったということもあって、ここからは尊敬をこめて氏をはずしてクロヴィスと表記させていただく。

クロヴィスの初めての公式来日は2011年9月。テタンジェ料理コンクールにあわせて来日するというスケジュールはこれで4年連続となる。初来日の際、第一印象は「物静かな文学青年」だった。それが、シャンパーニュがもたらす幸せな世界、テタンジェの哲学とは?という、文化的な話になると饒舌に、その話は熱を帯びていった。細かい栽培や醸造、テロワールの話などは淡々とこなしていた。「そういう話は僕がする話ではないと思う。もっとテタンジェのシャンパーニュ、そしてシャンパーニュの美しい世界を感じてほしい」。初来日から、それは彼の変わらないスタンスだったように思う。

初来日時のクロヴィスの様子、プロフィールはこちら
(シュワリスタ・ラウンジ ブログ)

この日もやはり饒舌になるのは同じ話題だった。しかし、初来日以来、機会をいただいて毎回インタビューをさせてもらったが、その内容は、願望から少しずつ確信に変わってきたように感じる。昨年のインタビューで特に力強く語っていたのは、「これから」についてだった。
「テタンジェの伝統、シャンパーニュの伝統を守るためには、過去のやり方をすべて作り替えなければならない。実は伝統を守っていくことは、やり方を守ることではなく、生き残っていくためにはレヴォリューションと、イノベーションが必要」
「だから僕たち世代は、そのための努力をしていかなければいけない。FIFAとのタイアップや大胆なノクチューンのデザイン変更にしても、そのひとつ」
大意をいえば、伝統を守るための積極的なチャレンジは、彼と、彼の妹であり世界中をアイコンとして飛び回るヴィタリーの世代に課せられた使命である、と彼は決意を固めていた。

クロヴィス動画インタビュー
(シュアリスタ・ラウンジ 特集 聞き手:岩瀬)


シャンパーニュそのもの、その作品としても伝統と革新のせめぎ合いの中で変わっていく部分もあるだろう。今後はクロヴィスとヴィタリーも父に代わって作品そのものへのコミットが主な仕事になるかもしれない。その中でクロヴィスやヴィタリーが今、担うべきは、マーケットの拡大や最適化、テタンジェがあるシーンで広がる、幸せな世界の伝導ということになる。

今回、日本の新しいチャネルであるピーロート・ジャパンを通じてのダイレクトセールスに投入したアイテムにも、もちろんその哲学は見える。展開されるのは以下の4アイテム。

レアアイテムとしてマニアには人気のあった『レ・フォリ・ドゥ・ラ・マルケットリー』。テタンジェが所有する、優雅で、しかし壮大というよりはむしろ快活な空気感のあるマルケットリー城の名を冠するこのシャンパーニュは、その城の雰囲気そのままに、クラシカル、中世の古典的な舞踏会にタイムスリップして、デヴィッド・ゲッタやファレルが御姫様たちにステップを踏ませるような、心地の良い倒錯感。単一畑、30%使用されるオークの古樽に、55%のピノ・ノワール。すべてが重厚で重苦しいムードにさせるようなスペックが、しかし、素晴らしき軽快なステップとハーモニー、可愛らしさをまとってやってくる。テタンジェ家のルーツがオーストリアという話を聞いてしまうと、そこに浮かぶのは、もしかしたら?のマリー・アントワネット。名門がクラシックな世界から生み出した心地よくてかわいらしいカウンターパンチ。コルセットで締め付けているからこその可愛らしさとセクシーさがある。

マルケットリー城の様子
(シュワリスタ・ラウンジ取材)

2つめは、『ブリュット・ミレジメ 2006』。一転、白馬の王子様的凛とした切れ味。駆ける白馬が優しく艶やかな風を起こしながら、しかし振り下ろされる剣は必殺。その風穴には再び爽やかな風。多少のヴァイオレンスさは実は一本芯が通った骨格だからこそ、そこから生まれる濃厚な核のため。これもテタンジェらしいピノ・ノワールの解釈か。

そして『コント・ドゥ・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン 2005』と『コント・ドゥ・シャンパーニュ ロゼ 2005』。
すでに、シャンパーニュ好きの女性の間では美しいシャルドネのプレスティージュと言えば、こちら、という人気を誇る、テタンジェを代表するトップブランドであるブラン・ド・ブランは当然このラインアップに入ってくることは予測していたが、ロゼはまさかの登場。8年間の熟成期間中、その5%は4か月間、3年ごとに新調される新樽で熟成されるというこのわずかなこだわりが、美しいはずの表情に美しいカオスを引き起こす。冷やし過ぎているわけではないのに最初のアロマは静かでなにも感じさせてくれない。それが一口、テイスティングのお作法を破って、思い切って喉をごくりと鳴らして体内に滑り込ませた瞬間、圧倒的なランドスケープが脳内いっぱい、3Dを超えてその世界に放り込まれる感覚。広がるのは地平線の先の先まで広がる、野生と良く手入れが行き届いた花壇が混在する、あたり一面の花畑。黄、赤、白、緑、オレンジ、ブルー。カタカナも漢字も入り混じるカオスな花畑が、どこまでも高い青空の下に広がる。後ろは怖くて振り返れない。もしかしたら断崖絶壁か、現実の世界か。前だけを見たくなるアッパーな感覚。美しく澄みきったカオス。澄みきった奥の奥から感じるリアルな土と葉と茎の生命の躍動。貴族であるテタンジェ家のメンバー、それぞれが世界中を旅してきて心の中に捉えたエキゾチックなるアルバムを、飲むそれぞれの人が見せられるような、そんな効果があるのでは、とさえ感じてしまう。

もちろん、このシャンパーニュを生むテロワールやテクニックの話も掘り下げて聞きたいと思う。だが、これを堀下げて聞く相手も場所も時間も、ここではない。逆に言えばその話題の元になること。なぜ、このようなシャンパーニュを作ろうとしたのか?そして、テクニックではなく錬金術的な神秘性を纏いながらの話になってしまうが、なぜテタンジェという名門で生まれるシャンパーニュはこのようなシャンパーニュになるのか?それを感じたい。
クロヴィスが発する言葉、そのすべてが、テタンジェファミリーであるからこその言葉。

「マリアージュ?テクニカルシートに紹介しているよ。それよりも君が聞きたいことはこういうことだろう?最高のマリアージュは何と併せて飲むかじゃなくて、誰と飲むか、ってこと」
2011年、まだ初々しく大人しかったクロヴィスが、ウィンクしながら言った言葉。あらためてテタンジェファミリーが送り出すシャンパーニュとはなんなのか?をまた思い出す夜だった。

「キリスト教の伝導は、長い日本の歴史の中でも困難でした。でもシャンパーニュはみなさんを幸せにしながらこうして日本に広がっています」。
テタンジェならではの、伝導。メゾンそれぞれの哲学、そして日本とのかかわり。やはり、面白い。