トルコ・アンタルヤ「ヘルス・ツーリズム展」

2013年11月13日~19日、トルコのリゾートエリアとして発展を続けるアンタルヤにて開催された『ヘルス・ツーリズム展』の取材。あわせて現地のスパ施設の視察という機会をいただいた。

日本ではまだ広くは知られていないが、トルコは地勢上、欧州エリアからのリゾート需要も高く、こうした経緯を生かして、現在、ヘルスツーリズムに力を入れているとのこと。ヘルス・ツーリズム展においては、メディカル、スポーツ、アウトドア・ウェルネスなど心身の健康、治療、娯楽面から総合的に、トルコにおけるヘルス・ツーリズムの可能性を見ることができた。僕の立場とすれば、ここに食、ワイン、そのほかのエンタテインメントを組み合わせて、トルコにおける「日本人としての幸せで楽しいトルコでのヘルスアクティヴィティはどうあるべきか」を形にすることがミッションなのだが、トルコ、そしてこのアンタルヤを中心とする地中海リゾート地域は、そのポテンシャルは十分で、とてもワクワクするテーマだと感じている。

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「弱者」の奮闘

1763年、日本では江戸だった時代からブドウ畑を所有し、シャンパーニュメゾンとしても、1918年から脈々と続く名門。そして現在も世界中で流通し愛されている中堅メゾン。つまりはそれだけを見れば、決して「弱者」という立場ではないのだけれど、実は、シャンパーニュの世界においては、家族経営、自社で収穫から醸造まですべてを担う、というこれくらいの規模のシャンパーニュメゾンほど生き残ることが難しいのではないかと思う。
「キャティア」。

そのシャンパーニュメゾンがこの話の主人公。

ここから、シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』にて私が当主、ジャン・ジャック氏、広報担当フィリップ氏に行ったインタビューを引用しながら、キャティアの「弱者の奮闘」を紹介したい。

 

昨年、キャティアは、あるアイテムで話題となった。それはエヴァンゲリオンボトル。賛否両論あったと、その時の空気を思い出す。ジャン・ジャック氏は軽やかにこう、答えた。

 

「実は最初この話が日本から持ち込まれた時は私も驚きました。シャンパーニュとアニメが一緒になるということが想像できませんでした。マンガとシャンパーニュの組み合わせなんてありえるのか?なぜなら、マンガやアニメはティーンエイジャーのためのものですよね?ところが調べてみるとそうではなくて、エヴァンゲリオンは子供が楽しんでいるものではなく、もう少し大人世代を対象としている。世界的にも、エヴァンゲリオン自体がスーパースター、セレブリティなんですね。事実、香港に滞在中、このボトルがきっかけでアニメ雑誌ではなくワイン雑誌の表紙を飾ることもできました。評判が広がってアメリカのお客様からも声がかかった。それならシャンパーニュのすそ野が広がるのではないかと考えたんです。まさに、キャティアのイノヴェーション・スピリットを刺激するものでした。わたし自身もお気に入りで、デスクにも飾っています(笑)」

ジャン・ジャック氏は軽やかにこう、答えた。柔軟な思考は、決してマーケティングだけを意識したものではなく、そこにあるのは、日本的に言うならば「ものづくり」の精神。


「トラディショナルなものをきちんと構築するのは当然。アグレッシヴに見えるかも知れませんが、私たちはそれぞれのキュヴェにこだわっている、その結果なんです。ノンドサージュならノンドサージュ(ブリュット・アプソリュ)、ブラン・ド・ノワールならブラン・ド・ノワール、それらにあわせた展開を考えると自然と多彩に見えるのでしょう。これからも新しいタイプのシャンパーニュを送り出すごとに、新しい展開をしていきます。キャティアは、オールウェイズ・パイオニア。そうあり続けたいと考えています」


こうしたコラボレーションや、この規模ながらサッカーのユーロ大会の公式スポンサーに名乗りをあげたり(ジャンジャック氏が熱狂的なフットボールファンであり、欧州協会のプラティニ氏と懇意ということもあるか。私との30分のインタビューのうち20分はフットボールの話になった、というこぼれ話はまた今度)、各国のエアラインの搭載シャンパーニュに積極的に手を上げたりするのも、ものづくりからの自然な広がりともいえるが、そこには、モノ作りを続けていくための経営上の戦略もある。広報、営業関係を担当するフィリップ氏はこう明言する。

「新しいものをどんどんマーケットに投入していくことはキャティアにとって、とても大切なことです。ユニークであり、特殊であるものを市場に投入する。大手のメゾンとの真っ向勝負は難しいけれど、柔軟に挑戦、クリエイトしていけるのが我々の強みですね。もちろん、ただインパクトのあるものを市場に投入するだけではなく、シャンパーニュ自体もしっかりしたものを造り続けなければいけません」

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ワイノット?誌 掲載

11月25日発売のワイン専門誌『ワイノット?』7号
シャンパーニュ特集号にて、巻頭の対談に登場しております。

執筆主筆の田中さん、オレキス オーナーソムリエの春藤さん、ラ・ヴィネの阿保さんという錚々たるみなさんとご一緒させていただき、実に楽しい時間でした。誌面ではわりとかみついているようなキャラになっておりますがwとても素敵な対談をさせていただきました。

よくもまあ、あの対談をここまでうまくまとめるものだ…ということで、編集・構成を担当いただいた木原さん、もう街を「すっぴん」では歩けなくしてくれた5割以上増し写真を撮影いただいた菅野カメラマン、ご紹介いただいた編集部・小田さん、山田編集長ありがとうございました。
売り切れないうちに、みなさん、読んでいただければうれしいです。

ちなみに特集ではほかに豪華対談、アルカン佐藤さん、中島薫商店の菊池さん、君嶋社長に柳沼淳子さんらが豪華絢爛に登場されています。僕がおススメしたノンドゼの話なのでそちらもぜひご注目を!

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生産者の力

白金高輪14にて、1日遅れのボージョレ・ヌーヴォー会。
私が、東京のお出かけサイト『レッツエンジョイTOKYO』でてがけた、「ワインの目利きによるヌーヴォーガイド」で取材した3軒のおススメセレクトをご紹介。

銀座君嶋屋さんからは
ニューヨークタイムズ誌など世界のワインメディアから絶賛される
スター生産者。
「ドメーヌ・デュ・ヴィスー ボージョレ ヌーヴォ レ・グリエット」ブルゴーニュの名門という凄み、風格。ロマネ・コンティの共同オーナーが品質を守る、ハイクオリティ
「ルロワ ボージョレー・ヴィラージュ・プリムール」 

ワイン・スタイルズさんからは
ボジョレー地区のビオロジック栽培のニュー・スターの1人
「ドメーヌ ジャン・フォイヤール」
ビオロジック栽培の樹齢60~100年のガメイを用いた心と体に沁みる
「フレデリック・コサール ボジョレー ヴィラージュ プリムール」

ボン・ルパ麻布十番店さんより
家族経営で収穫はすべて手摘み。丁寧に作られた珍しいロゼ!
「バラック ボジョレー ロゼ ヌーヴォー」
超少量生産。1700年代からの由緒ある生産者
「ポール・アンドレ ボジョレーヌーヴォー キュヴィエール キュヴェ スペシャル」

という6種類のワインをみなさんに楽しんでいただきました。
参加された方はワインの経験値もさまざまで、ヌーヴォーを一度にこれだけテイスティングするのも初めての経験という方も。

今回のラインアップを楽しんだ結論としては、「何年に一度の出来」とか「瑞々しい印象」とか、正直なところどうでもいいんじゃないかと。というのも、これだけの作り手ともなると、ヌーヴォーの出来ではなくて、あくまでも、その作り手の今年の個性を楽しむというのが正解なんじゃないかと。

いわゆる世間でいうヌーヴォーというカテゴリーの中でのみ語るには惜しすぎる、素晴らしいロゼから始まったこの夜の6本、6の生産者は、ともに、今年のマーケティング的に喧伝される出来を表すフレーズには当てはまらない、重厚だったり、圧倒的な余韻だったり、美しさだったり、南仏を思わせるスパイス感に、まさかのトロピカル…と多彩な味わいと喜び。出来が良い年、悪い年。それはたしかにあるのだろうけれど、その年に、その生産者がどんなアプローチをしたのか、戦ったのか、喜びがあったのか?そここそがヌーヴォーを迎える楽しみなんじゃないか。シャンパーニュの偉大な02と挑戦の03.そのどちらも、生産者にとってはつらくて幸せな表裏一体。

騒ぐでもなく、冷めるでもなく。ヌーヴォーの日は、生産者の力と喜びと、その裏の汗と涙と笑顔の日々を、感じる日にしたい。

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キュヴェ・ルイーズ02スニークプレビュー

ポメリー社最高醸造責任者のNO.2、クレマン・ピエロ―さんによるキュヴェ・ルイーズ02のスニーク・プレビュー。02の発売は来年春予定ということで、実にうれしい機会をいただいた。


99年以来のヴィンテージとなる02は10年の熟成期間を経てのリリース。7年目のテイスティングで醸造側は「まだ早い」、会社側は「早く出したい」というせめぎ合いがあり、あと3年、の決断を下したというエピソードに名門の意地を見る。
クラマンさん曰く、02は、99に比べて、「これぞポメリーの体現」と表現。


私的テイスティングノートは、「それでもまだ早い」。ただしそれは肯定的な意味で。
いきなりアタックからコンプレックス。カスタードクリームを感じる濃厚さと同時に、可愛らしい赤い果実と、爽やかで快活な柑橘。しばらくするととても細やかでつややかで可愛らしいハニーテイスト。静かで落ち着いた余韻から、次第にパワフルな飲み心地に。口は全く疲れないけれど、体内に蓄積されるのは確かな飲み心地。
コンプレックス、しかし、それらが広がったり散らかったりせずに、すーっとまっすぐ、きれいなミネラルと共に感じられる。このあたりはさすがにプレスティージュキュヴェ。華はないが、確かなシャンパーニュがそこにある、という印象。

「それでもまだ早い」の印象は、それだけのポテンシャルを感じるから。ここから圧倒的なパワーになるとは思わないけれど、もっとエレガントさを纏えるんじゃないかという贅沢な予測。
少し瓶内で寝かせた来年のリリースが実に楽しみ。

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レッツエンジョイ東京ヌーヴォー特集掲載

東京のおでかけサイト『レッツエンジョイTOKYO』にて
「その道のプロに聞きました!
おススメボジョレーヌーボー2013年版」
という企画を担当。

ワイン・スタイルズの田中さん
銀座君嶋屋の君嶋社長
ボンルパ麻布十番店の宇佐見さん
におススメを紹介いただきました。

http://season.enjoytokyo.jp/beaujolais_nouveau/

ヌーヴォー選びのご参考に。

そして実践派ライターとしてはせっかくの取材成果、ということで
11月22日(金)白金高輪14では、こちらで購入したヌーヴォーを実際に飲む会を行う予定です。
※全部そろうかどうかは未定※揃わない場合は別のものに…

ちなみに普段、僕の表記はボージョレ・ヌーヴォーなんですが
まだまだボジョレーヌーボー表記のほうが一般的な様子ですね。

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今、自分に合うワインを発見する会

キーワードは「うまい、まずい、たかい、やすい」ではなく、
「今の自分、が、心地よいワインを探そう!」

以前、実はワイン嫌いになったことがありました。
その時のワイン会は今でも苦い想い出。
ボルドーの某高級ワイン。当時26歳。初めて飲んだそのワインは、その時の僕には、ただただ苦く、シブく、重く。辛口じゃなくてこれ苦口とか渋口にしろよ、と心の中の悪態。その表情を察したのか参加者の中の一人のワイン通がこういった。
「はぁ~。この凄みが分からないとか、ダメだねえ」
すると周りの連中も一緒になって、嘲笑(まあ、こちらの被害者意識も強かったのかもしれないけど)。そしていわゆるよくある、何年の何と比べると的な自慢合戦開始。
「気持ちよくなりたいのに、凄みとかなんだよ」
と肩を震わせながらの夜。ワイン愛好家という人が嫌いになったことで、ワインも嫌いになった。そもそも、なんだよ、ワインって発音が嫌だ、とか、もう、坊主憎けりゃ状態。

それを払しょくしてくれたのが、シドニーでの1週間。
なんとワインがある時間、ワインと共に過ごす人っていうのは素敵なものなんだろう!
ハンターバレーでシラーを飲みまくり、「今の自分、が、心地よいワインはこれだ!」という発見。そこから少しずつ、飲む範囲を広げてみると…その場、その時間、一緒に飲む人との違い、さらに加齢していくことによって変わっていく好み…

豪州シラーから南イタリアへ、そしてボルドーに心のリベンジ。しかもサンテステフ。そこからサンジュリアン、そしてピエモンテ…赤まっしぐらかと思っていたところに表れたアルザス白からの白マイブームを経てシャンパーニュからの南仏…振り返ってみれば毎年毎年、その年を飾ってくれる自分にとってのワインが登場。今年は、ラングドックのプレスティージュ、ニューヨークのピノ・ノワールとアルゼンチンのマルベックに、中近東、特にキプロス(国だったり産地だったりぶどうの名前だったりが入り混じってすいません)。きっと来年、また自分の加齢や環境や発見で、好みがガラッと変わるかもしれない。そんな喜びがワインにはあります。

と、長々体験談を書いたわけですが、
結論としては、ワインの入り口はたくさんあるから、まずは、「今の自分、が、心地よいワイン」に気づくこと。そのワインが、どこの国で、どういうブドウで…とまずはそれだけがあればいいんです。そしてもうひとつ、「今の自分が、ちょっと心地よくないワイン」も知ること。そしてこのワインを嫌いにならないでください。マズイという一言で片づけず、もしかしたら将来好きになる日が来るのかなあ、とそんな気持ちで。
その2つのワインとまずは出会うことで、そこから、いろいろなことが見えてきます。お店に行っての相談、酒屋さんでの相談。まずはそれだけあれば、あとはそのプロの人たちが少しずつあなたのワインの世界を広げてくれます。ここではそのきっかけづくりになれば、と願っています。

というスタンスで行っているスタジオ14(キャトルズ)でのワイン会。
11月8日は、扉を広げるためのワイン会。

1本買った。口に合わないワインだった。ワインはこのリスクが高い。特にやや高めのワインの時。この会では一度にたくさんの種類(今回は6種程度+α)を口にすることができますので、この日だけで、その2つの方向性(今あう、今合わない)を見つけることができます。お酒を不味くする薀蓄ではなく、好みを見つけるためのヒントになる、楽しい会話の中で、扉を開いていただけるとうれしいです。

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11月8日(金)
19:15 open 19:30 start
23:00 close
白金高輪14
※白金高輪駅徒歩5分。詳細アクセスは参加者のみなさま個別にお知らせいたします。

会費:
グラスワイン 8種 6000円
グラスワイン 少量 8種 4000円
(少量は1杯30ml程度。まだワインがお強くない方向けにご用意しました)
共に軽食付き(ワインにあわせたおつまみプレート、パン、その他1、2品)
https://www.facebook.com/events/1432852316935765/?ref_dashboard_filter=upcoming



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オールブラックスとの30cmの差

「ジャパン、オールブラックスに完敗」

というニュース速報のヘッドラインに激しく怒りを覚えながら、現時点ではそういう認識をされても仕方がないのか、それもまた2019年に向けての第1章が終わって、第2章の始まりと考えれば、速報に乗るだけ良いのだろうと思う。

 

というのも、おそらくラグビーに関心を持たれて今回初めてご覧になられた方にとっては(マスコミさん含めて)、日本とオールブラックスの間にある過去の絶望的な差はわからないのだから仕方がない。

 

サッカーで例えるならば…という例えようがない存在。王国ブラジルでさえ、その例えにならない。サッカー日本代表はブラジルに勝つチャンスはいくらでもある。だが、オールブラックスに勝つ、なんて言葉は夢の中でさえ口にしてはいけない、それほどの絶望的な差。ギネスブックに「最も得点差の開いた試合」と記された屈辱の南アフリカの惨劇。圧倒的な世界一チーム。ニュージーランドとそれ以外のトップ9。その壁の前にさえ立てないジャパン。

だが、トップリーグの開幕以降、ジャパンは着実に成長。高校レベルのラグビーでも輝きを見せ、トップリーグにはニュージーランドを含め各ポジションの世界一ともいえるプレイヤーが数多く在籍する。南アフリカからは世界最高のセンタープレイヤー、ジャック・フューリー、世界最高のスクラムハーフ、フーリー・デュプレアが、ニュージーランドからもオールブラックスの花形選手たちが、豪州からは最多キャップ男ジョージ・スミスらが…その中で選手たちは成長し、今、世界の壁も、オールブラックスも、憧れの大将ではなく、倒すべき存在になった。その憧れから現実の敵、までたどり着けたのが、これまでの日本のラグビー史の第1章とすれば、2019年自国開催のワールドカップへ向けて、世界の中のジャパンラグビーを確立する第2章が始まる。今回のオールブラックス戦はその第1章の集大成であり、来週からの欧州遠征はその第2章のはじまりなのだ。

11月2日、土曜日、聖地秩父宮はフルハウス。
前半は、日本ラグビーの歴史のひとつの金字塔。
(以下前半終了時の僕のfbの勢いのままの投稿)
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日本ラグビーの歴史のひとつの金字塔。
スコアこそ6-28とリミットまで差はつけられた。
しかしスクラムは互角。ラインアウトはほぼ完ぺき。落ち着いた戦いぶりではやるオールブラックスのオフサイドを誘発。セットプレーに関しては、オールブラックスを慌てさせるに十分。アタックも素晴らしい。

だがもったいない。2つの相手パントからのハンドリングミスと1つのミスディシジョン。あまり特定の選手を名指しはしたくはないが、これまで貢献してきてくれたホラニの出来が今日は最悪。最初に勢いに乗りたい場面、そして喰らった先制点、さらに追加点もホラニのミスから。最高のトライチャンスでもフォローが遅れツイを孤立させてしまいここで勢いが終わった。

それでもなお落ち着いた戦いぶりは、ある。
フォワードではブロードハーストの献身、一列目の奮闘、伊藤、大野の両ロックの寡黙な激烈…涙が出る奮闘っぷりだ。
このスコアになると、勝利という確率は残酷なまでに下がるけれど、それでもなお、オールブラックスを慌てさせる場面はまだまだあるはずだ。
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しかし、後半、オールブラックスは残忍なままに強かった。セットプレーではウィークポイントを完璧にアジャスト。非常なまでのハイパントからのプレッシャーに、ジャパンは次々とほころびを見せ始める。スクラムでも非情。前半、世界最高レベルの技術と言われるフランス式を取り入れたジャパンにとまどい、リズムをつかめなかったオールブラックスだが、これもアジャスト。それどころか、展開、PGのチャンスでも、次戦でぶつかるフランス戦の練習台にスクラムを選択。疲弊し、押され続けるジャパン。そこには間違いなく点差には表れない、恐ろしさがあった。

桜は散った。美しく咲き誇った前半。だからこその寂しさ、落胆…だが、美しい桜は一度散っても来年にまた咲き誇る。散り際の美しさ、それはまた美しい姿を見せるためのもの。後半38分から、ジャパンは、次の満開を予感させる逆襲を魅せる。疲弊していたはずの選手たちが、次々とオールブラックスに攻めかかる。ブロードハースト、ブロードハースト、ブロードハースト!徹底的にジャパンの7番が196cm111kgを無骨に母国のゲインラインにその身を叩きつけ続ければ、ジャパンの闘志が燃え上がる。勝ち負けではない。オールブラックスに前半と同じ、いやそれ以上の焦りと不安が広がる。世界最高の7番、リッチー・マコウの後継者、超新星サム・ケーンがペナルティで退場。何が彼らを突き動かすのか…

フェーズを重ねつづけ、ついにジャパンは大きく左に展開。トライチャンス!ライン際を走る福岡にパスが渡り、目の前はなにもない。ついにオールブラックスからトライを奪える!その刹那、リッチー・マコウの賢明に伸ばした足が福岡の目いっぱい伸ばした腕を襲う!そのままサイドラインを割ってトライならず。その差、わずか、わずか30cm…。

タイムアップ。PG2本による6点。結果を見ればこのスコア。叱咤激励を込めての「完敗」という言葉ならば、やはりその「完敗」は確かに間違いはない表現だろう。しかし、今までは完敗ではなく、圧殺であり惨殺であり、屈辱という言葉さえ与えてもらえなかったゲームだった。2011年ワールドカップニュージーランド大会の7-83.これはそのスコア以上に現実を叩きこまれた試合だったが、今回は、点差ではなく、内容として、逆に「勝つために何が足りないのか?」を現実として考えられる試合だった。

32歳、世界最高のオープンサイドフランカーであり、世界最高のキャプテン、プレイヤーの一人であるリッチー・マコウの懸命を引きだしたのは、筑波大学21歳の福岡堅樹。第1章の巨大なボスキャラを相手にしたのは第2章の幕開けを明るい希望で照らすジャパンの若い力。30cmで押し出されてしまったオールブラックスへ、世界家の剣。今はこの30cmの差はとてつもなく厚くて高くて強靭だ。でも、あと30cmだ。この30cmをやり返すこと。第2章。できる。惜敗もいらない。この30cmが惜敗そのもの。次は、勝利。それが、現実的な目標。

2015年ワールドカップイングランド大会。ニュージーランド同様、おそらく日本に30cmの分厚くて高くて強靭な壁を見せつける世界2位の南アフリカ戦。ここで、満開となるために…。今日の関東学生ラグビー、明治対慶応、帝京対早稲田。1夜開けた秩父宮で行われたこの試合も、その30cmのためのひとつ。ワクワクしてきた!

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one on one

 
展開も読めるし、ラストも読める。でも泣く。ガッツポーズをしながら。そして余韻でまたじんわり泣く。そういう映画が昔から好きなんだろう(もちろんゴッドファーザーやら、広島死闘篇やら、ゾンビも好きなんだが)。

そのじんわりが、どことなく切なくて、そのラストのその先、映画ではエンディングロールが流れるその先にはきっと希望だけではなくて。
秋の高い空、雲が無くて澄み切っているからこその、胸にぽっかりなにか穴が開いて。将来への不安もある。だけど精一杯、今を、生きていくしかない…。そういう青春物語が好きだ。

卒業、ガッツポーズはなくて苦くて切なさしかないんだけど、真夜中のカーボーイ、明日に向かって撃て、に、カリフォルニア・ドリーミング。がんばれベアーズも、元気で痛快なラストの先にバターメイカーと少年たちの見えない明日がある。

70年代の名画座とテレビの洋画劇場育ちのフランチャイズのひとつは、やはりこのあたり。建国200周年に沸くアメリカに、雑誌ポパイの西海岸特集。サイモン&ガーファンクルとKISSから始まった洋楽の洗礼。さかのぼった60年代で出会ったアメリカンニューシネマとスペクタクル映画。その中で、たっぷりとあの頃の空気を充満させた青春映画が、心地よく痛かった。

1978年、ロビー・ベンソン脚本・主演、カレッジバスケットボールを舞台にした、青春の甘さ、青さ、痛さ、つまりは成長というやつが、ヒリヒリと詰まって、最後は一点の曇りのない青空の旅立ちへと続く、佳作「ワン・オン・ワン」。
フォークロックデュオ「シールズ&クロフツ」が歌うメロウで爽やかなナンバーも見事。このころの青春映画と音楽は一心同体(シールズの弟はイングランド・ダン&ジョン・フォード・コーリーのイングランド・ダン)。

この映画こそが、どうやら、映画と音楽と人生の、自分のど真ん中
つまりはまだ、成長途上で、いつまでも甘さと青さを引きずって、明日の自分を探しているということなのか。
でも、振り返ってみて、あのころ、恥ずかしさも取っ払って何かに打ち込んで、挫折して、痛くて、でも充実感と、喜びがあったな。そんな、人生のロードムーヴィーのハイライト的一場面が、自分の人生にいくつかあったことは、誇りに思っていいんじゃないかとも思う。

なぜかこの映画をふと思い出して、思わぬ長文になってしまった…
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