Japanese wine update #3

富山でワイン?できるわけがない、と思っていた。半信半疑というよりも全く期待せずにワイナリーを訪れた。誰がこの場所でワインなど造るのだろうか?その疑問は丘を上がるごとに思わぬ期待に変わっていった。富山県、氷見市。全国的には寒ブリで有名な街だ。港の方から丘の上に上がると、美しく整備された緑豊かなブドウ畑にそよぐ穏やかな風。単なる極寒の海風の場所かと思っていたが、湾から緩やかに上がってくる風はゆるやかで、優しささえ感じる。聞けば寒ブリでにぎわう湾は、マリンスポーツも楽しめる海だという。しばらく湾を眺めているともうひとつの風を感じる。立山連峰から吹き下ろす風だった。富山県は南側にそびえる3000m級の立山連峰から、豊かな漁場であり深海まで一気に連なる海に挟まれている。豊かな水はもちろんだが、この丘で感じるのは「風の豊かさ」だった。海からの優しいミネラル、立山からの冷涼で凛とした空気。ワインのテロワールと言えば土壌に着目するのは当然ではあるが、この地で感じるのは風とワインの関係だ。

例えば、南仏のワイン名産地ラングドック。その北西部にあるリムー地区。名門、俊英が続々とこの地に目をつけはじめた一つの理由は、地中海からの温暖な風と、ピレネー山地からの冷涼な風にある。冬には地中海からの風は激烈な寒風となって襲い掛かってくるが、今度はピレネーの雪が優しい風を与えてくれる。

この地で、彼らが目指すワインは、おいしいことはもちろんだけれど、「氷見である意味」。それは氷見の魚に合うワインだ。このワイナリーの経営母体は地元の魚を扱う業者。スタッフの出身もこの会社だ。栽培責任者は陽気に笑う。「僕たちは魚屋ですからね。ワインのことは分かんないんですよ」。しかし10年にも満たないストーリーの中で、彼らは素晴らしい歩みを重ねてきた。志半ばで亡くなってしまったメンバーのために、氷見という街のこれからのために。寡黙でシャイな醸造責任者は、手ごたえを口にしながらも悩み続けている。試飲する人たちの「おいしい」の言葉に表情を緩めながらも、頭の中は次のアイデアでいっぱいのようだ。

試行錯誤の成果が着実にアロマと味ににじみ出てきたシャルドネ、懐かしさの中に洗練が見え始めたソーヴィニヨン・ブラン、すでに豊かなスパイスと果実味で「日本離れ」しはじめてきたメルロー、儚さと繊細さが新しい個性をもたらし始めたカベルネ・ソーヴィニヨン、その場の空気を優しく変える力を持ったロゼ…。これらの個性が、ワイン単独というだけではなく、魚介の燻製と見事な調和を見せる。結果としてのマリアージュではなく、狙いとしてのマリアージュ。その狙いこそが、この地でワインを生む意味。

まだラベルが貼られていない2013ヴィンテージのシャルドネ。そこからにじみ出てきた氷見のミネラル。酸とか旨みとか、それだけではなく、そこには「人の想い」というテロワールの一要素を感じることができた。錯覚ではない、と思った。

says farm website


Beaujolais nouveauという祝祭日

熱狂でもなく嘲笑でもなく。ボージョレ・ヌーヴォーは、1年に1度のワインの楽しい祝祭日。ただただ、それでいいんじゃないか。静かにしみじみとでも仲間と楽しくでも、パーティイベントに出かけるのもいい。いわゆるワイン愛好家の中でも、ヌーヴォーの日は穏やかではない。嘲笑派と熱狂派とでもいうのだろうか。僕は、そのどちらも肌に合わない。百年に一度とか、近年稀にみるとか、そういうキャッチーな言葉を巡っての論争や嘲笑などどうでもいい。そこに、いつもの生産者が、いつものように、今年も新しいワインを届けてくれる。私はこれが好きなんですという酒屋さんの微笑みを見ることができる。ブドウの収穫が足りない年に、その生産者は、さてどんなワインを作るんだろう?100年に1度と喧伝される年にあの生産者は自分のスタイルを崩さずにおもしろいワインを届けてくれるんだろうか?そんなわくわく感で、11月第3週木曜日を迎える。七草粥でも土用の丑の日でも初詣でもいいし、4年に1度のワールドカップを熱狂と嘲笑で迎える人が、今度は立場を入れ違えてハリーポッターやアニメの新作に対して熱狂や嘲笑の立場を変える。どっちだっていいじゃないか。敬老の日に先達に感謝するように、クリスマスにケーキを買うように、ボージョレ・ヌーヴォーという祝祭日。楽しく迎えようじゃないか。

という僕の気持ちを伝えながら、楽しんでいただきたいな、ということで、今年も、僕のサロン『白金高輪14(キャトルズ)』でささやかなボージョレ・ヌーヴォー会を開いた。ラインアップは以下の通り。

ジョルジュ デュブッフ ボジョレー ヌーヴォー (コノスル ピノ・ノワール 2013)
バラック・ド・ラ・ペリエール ボジョレー ヌーヴォー
バラック・ド・ラ・ペリエール ボジョレー・ヴィラージュ ヌーヴォー
ドメーヌ・ドゥ・ラ・マドンヌ ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボー
シリル・アロンソ P・U・R ボージョレ・ヴィラージュ・ヌーボー
ポール・サパン ボジョレー・ヌーヴォー キュヴェ・トラディション
フィリップ・パカレ ボジョレー・ヴァン・ド・プリムール
ボージョレ・ヴィラージュ・ヌーヴォー ルイ・テット キュヴェ サントネール

今回は、ボージョレとボージョレ・ヌーヴォーとどう違うの?ヴィラージュってなに?といったことから、ワインメイカーのスタイルによってこれだけヴァリエーションがある、そして和食や豚肉その他気軽なマリアージュの紹介など、そしてなにより僕が思うヌーヴォーとボージョレに対する想いをもって案内させていただいた。
いわゆる王道的なデュブッフとチリのピノ・ノワールの飲み比べ(ブラインド)、同じワインメイカーのボージョレとボージョレ・ヴィラージュの飲み比べから、2つの信頼できる酒屋さんの推薦による4本、最後に、ルイ・テットを心行くまで…
フィリップ・パカレは「来年の今頃このワインを飲んでもいい」のけぞる出来栄え、マドンヌのまろやかなバランス、シリル・アロンソの鮮烈さがチャーミングなアシッド、ポール・サパンの思わず「あ、旨い」というシンプルな感激…。

あんなもの、でも、絶対飲むべき、でもない、もっとリラックスした気持ちで。ワインを口にしたときに口にする感想以外は、テーブルで華が咲くのはお互いの今の話だったり、新しい交流だったり。ボージョレ・ヌーヴォーはプロでもない限りは眉間にシワなんか寄せて飲んじゃだめだ。明るい笑顔、楽しい話題、幸せなテーブルが生まれる、年に1度のワインの祝祭日。繰り返して書くけれど、ただただ、そんな日でいい。


今回は2つのメディアでボージョレ・ヌーヴォーについて紹介させていただいた。あわせてご覧ください。

レッツエンジョイ東京・ボジョレー・ヌーボー特集
ワインの目利きに聞くおすすめヌーボー
http://season.enjoytokyo.jp/beaujolais_nouveau/recommend/index.html
3軒の酒屋・ワインショップの取材。アサヒヤワインセラー(江古田)さん、青山三河屋川島商店(表参道)さんのおすすめを今回のヌーヴォー会で提供。


ウーマンタイプ
「今年は美味しいね」なんて言ってない?知らなきゃ恥ずかしいボージョレ・ヌーヴォーの基礎知識

http://womantype.jp/mag/archives/46987
こちらでワインをかじったからこそやらかしがちな間違いについてコメント。もちろん知識のない方、これから飲んでみたいという方ははずかしいなんておもわず自由に飲んでいただければ!


VINEXPO NIPPON TOKYO 2014

11月1日(土)2日(日)の2日間。業界の期待と、逆に懸念と。いろいろな声が聞かれたイベントだった。確かにプロ向けのワイン会は基本平日の昼間が中心で、さらにいえばプロからも料金(4,000円)を徴取するというのは、日本のワイン業界の慣習からすれば、いろいろな意見があってもしょうがないことなのだろう。確かにいわゆる集客という意味では、一般の方も入れるようなイベントに比べて、そして平日昼の業界向けのそれに比較して、「寂しい」という声も聞こえてくる。でも…と、ここでどっぷりと業界の人間ではないからいえることなのかもしれないけれど、おかげで、ゆっくりとひとつひとつの「わりと本気で売りに来た」メーカーの方々と話し込むことができた。実際2日で約6時間いてもようやく半分回れた程度。この客数だからこそ、そして、試飲という行為が目的ではなく、ビジネス寄りの空気感は新鮮だった。

キーワードだけでいえば、新時代のエレガントなラングドック、抜群にいやらしいシャスラ、狂乱と素朴のロワール、頑固おやじの心優しきシャンパーニュ、男の苦味と甘みをまとったポルトガルのガーリーワイン、チャーミングなタヴェルに、オートクチュールなヌフ…なんてフレーズで面白ワインとの発見はつらつら書けるけれど、そのひとつひとつと、こうした博覧会形式の中で、じっくりと対面しながら世界を掘り下げられたのは嬉しく、楽しい体験だった。コンサル的にもプレス的にも紹介したいワインとメーカーの数々。様々な打ち合わせやメディアの中で、その熱意と哲学も含めて紹介していければと思います。

■さまざまなカンファレンスやセミナーも同時開催。その中からドメーヌ・ドゥ・バロナークのマスターセミナーに参加。昨年、リムーというテロワールの素晴らしさについてお話をうかがったディレクター氏と再会。今回は垂直試飲を含めての機会。07の卓越に興奮