トルコ・アンタルヤ「浴場は社交場」

今回の旅の目的の一つはトルコに脈々と受け継がれるスパ文化にリサーチ。しかし、最新と自然の組み合わせなど、古(いにしえ)と最先端の融合から、世界中で素晴らしいスパはある。僕自身も結構好きで、日本を含め、世界のいろいろなスパを経験したので、トルコに対してはそれほどの期待をしていなかったというのが本音。

しかし、これがあった。トルコの伝統的スパといえば『ハマム』。蒸し風呂で、いわゆる三助さんがいて、ゴシゴシ垢すりに泡マッサージという定番のスパ。スパというよりもむしろ日本の江戸時代の銭湯に近い(江戸の銭湯は蒸し風呂)のか。スパという言葉を狭義でいうならば、今のカタチなのだろうけれども、広義で言うならば、お風呂的なものを中心とした癒しと交流の場所だろう。どこかハマムと銭湯は、そこが、かぶる。

街場の伝統的なハマムから、最新のゴルフリゾートの極上のハマムまでいろいろ視察、体験をさせてもらったが、単に美容、健康の施設というのではなく、やはりそこには社交であり、人間の匂いがする。昔、女性のハマムは、周囲のおばさま方が若い娘の嫁入り前のカラダのチェックをする場所だった、なんて話も聞いた。ホテルのハマムではでかい大理石のベッドに男2人寝そべって、あーでもない、こーでもないと話す地元の男性がいた。あったまってキレイになった身体でリラクゼーションルームに行けば、チャイでも水でもひっかけながら、また長話が続く。銭湯だ、日本の銭湯だ。

この文化は、古代にさかのぼる。アンタルヤ近郊にはごろごろと…と言っては大げさかもしれないが、ローマ帝国時代の遺跡に出くわす。その中のひとつ、ペルゲの遺跡。アルテミス神殿と伝えられる建造物などの中にあって、浴場跡もあった。朽ち果てたような遺跡なのだが、不思議に人の活気を感じる。スピリチュアル的な体験といえばそれまでなのだけれど、広い社交場の様なスペースを取り巻く沢山のバス。それはハマムというよりはローマ風呂のように水が満ち足りていたようだが、いずれにしてもここが交流の場であり、戦から、船から、そして交易からかえって来たり集ったり、明日にはまた旅だったり。そうした人たちの陽気でせつなくて、でも楽しくて、という思いがまだ残っているように感じた。ガイドを務めてくれた地元の女性・エスラさんも「私はここにいると不思議に落ち着くんです」と言う。水に流す、という言葉。日本の銭湯やこのハマム、トルコの浴場文化には同じ何かが流れているようにも思う。
トルコのビジネスパーソンと日本のビジネスパーソンが、トルコではハマムで、日本では銭湯で、裸の付き合いをしたら何が生まれるか…と、この遺跡での妄想。