March of the birds of North

冬の北陸の旅といえば、やはり鉄道が良く似合う。車窓から日本海や立山連峰を眺めながら雪の中、駅にゆっくり滑り込み、ドアが開いた瞬間に冷たい風が心地よい緊張を与えてくれる。東京から福井、金沢なら米原経由、富山なら越後湯沢から特急で。その特急が冠した名前は素敵な北国の鳥たち。
しらさぎ、はくたか、雷鳥はサンダーバードに。

2014年2月の旅は、小松空港からバスで金沢、ではじまったが、2日目にはしらさぎで加賀温泉郷へ。3日目の朝は再び金沢へサンダーバード5号。飛行機で帰る予定が東京の何十年ぶりの積雪の影響で欠航。アクシデントではあったが気持ちを切り替えれば、鳥たちと仲良くなれるチャンス。金沢から越後湯沢へはくたかに乗り、越後湯沢からは新幹線、とき。

 

2015年北陸新幹線が開業すると、これらの区間は第三セクターの運営となり、鳥たちは巣立っていく。時間の短縮という利便性と快適性を得られる代わりに、子供のころから親しんだ北陸の鳥たちとはお別れという寂しさはあるけれど…新しい新幹線の公募名、その上位にははくたかが残っているらしい。できれば、どこからかもってきたような名前で新しいというイメージだけを求めるよりも、昔ながらの鳥たちの記憶をそこに残してほしいなとも思う。

もしかしたら最後になるかもしれない鳥たちとの行進。しみじみ楽しんできた。


The new Bordeaux, "smile every day"

ボルドーの凄み。それは決して1本3万、4万、20万、100万円というワインにだけ与えられるものではない。2000円代にも、その凄みがあった。その凄みは「easy to drinkなボルドー」というおよそ凄みとは真反対のところにあった。飲みやすい、実に飲みやすい。でもそれは単に「水みたい」「フレッシュ」という意味ではなく、複雑でひっかかりがあって、一瞬その複雑さを探るために底の方まで引き込まれそうになるんだけれど、途中ではっと気がつく。そういうのどうでもいいんじゃやないか?いや、それがどうでもよくはないんだけど、やっぱりどうでもよくなるという。ひっかかりがむしろ心地よくなって、最終的にはどこかに連れて行かれている…そんな心地よい堂々巡りからの心地よい結論。

ワインの名前は「CAP ROYAL」(キャップ・ロワイヤル)。仕掛けたのは、メドック格付け第二級、ピション・ロングヴィル・バロン。フランスの保険会社であるアクサグループの傘下となり、その好影響もあって再び評価を高めた名門の仕掛けは「低価格・高品質」という挑戦。

もちろん、「低価格・高品質」のワインは世界中にたくさんある。むしろこのブログで紹介しているワインのほとんどは「低価格・高品質」というカテゴリーだと思う。南半球から中近東、もちろんスペイン、イタリアなど欧州、当然、南仏、南西はその宝庫。ここにボルドーというワードがひっかってくる。いや、もちろんすでにバリュー・ボルドーという展開はあって~僕自身もこの3000円前後のボルドーワインの紹介という仕事をしたこともある~安うまボルドーは存在し続けていた。シャトー・ラグランジュのサードや、シャトー・モンローズのサンテステフ・ド・モンローズなんていうのは、僕の中では歴代「低価格・高品質」ワインの代表格。
ところが今回名門が繰り出したのは2000円前後の新コンセプト、新ブランド。大丈夫かな、本当に?と言うのが最初に話を聞いたときの正直な感想だった。

ところが、この2000円代が、美味い。白赤2種の展開だが、特に驚いたのは白。旨いというより美味い、か。90%のソーヴィニヨン・ブランの爽やかさと品の良さに、セミヨンが程よい大人の可愛らしさを添える。そっと手をつなぎながらも絆は深く一体化。ブドウの質はもちろんなんだろうけれど、このブレンドテクニック、テクニックというか…よくこういう品のいい御嬢さんを育てたな、というジャン=ルネ・マティニヨンさん(写真左)の、スキルと経験を深く、深く感じる。1987年から名門のテクニカル・ディレクター。そのプライドと匠が楽しく表現され、飲む方の気持ちまでふわっとさせてくれる。
同行した販売会社の輸出部長のジェローム・ピレさん(写真右)にいつもの質問をした。
「どんなオケージョンで飲むのがおススメですか?」
「毎日ですよ!毎日!(ニッコリ)そのために作ったんですから」
マティニヨンさんもうなづきながら
「夏のテラスなんて最高だよ。うん、夏、毎日。いいねえ」。
名門を背負った男とは思えないチャーミングで幸せな「軽はずみ」な言葉。ピレさんが続ける。
「あ、でも朝はダメですね。しごとにならなくなっちゃう(笑)」
ボルドーにしてこの明るさ、ボルドーだからこその気品。
いわゆる恋におちられる系のワイン。グレープフルーツ、ピーチの鮮やかな甘みと酸味にクリームタイプチーズの柔らかい部分のクリーミーな感覚。毎日微笑むことができる白。

赤も同様の世界観ながら、この日合わせてテイスティングした、ピション・ロングヴィル・バロンの05とやはり共通の世界観がある。しみじみ飲みやすい。白ほどのインパクトはなかったが、逆に飲みづかれしないけれど飲みごたえは感じられるデイリーレンジボルドーという楽しみはありそうだ。

こちらのワイン。まずは日本のみの限定展開で、その様子を見て順次世界展開をしていくとのこと。
ピレさん「まず、日本の洗練された方々に試していただくことは、私たちにとっても、とても喜ばしいことです」。
この名門を口説き落とした株式会社アルカンから展開開始。酒屋さん、百貨店、飲食店で見かけたら、「今、飲めるのは日本だけみたい」というちょっと、鼻を高くして、リラックスして楽しんでみてください。


Japan wines,up-date

熊本の友人から届いた熊本県産のワインを飲んだ。現在、入手困難とのことらしいのだが、失礼ながら熊本がワインの産地であることすら知らなかった時期もある。ワイナリー名はその名も「熊本ワイン株式会社」。こちらの「菊鹿シャルドネ」が評判が高いという噂は聞いており、飲んでみたいな、と思っていたところの嬉しい贈り物だった。

しかし、同封されたリーフレットを見ると、そのネーミング、品種、ボトルデザインともに、正直に言えば僕とは違う方向のセンスというか…一時代前の観光お土産葡萄酒そのもの、と感じた。自分では買わないだろうなあ、という印象。ぶどう品種で言えばナイアガラ、キャンベル・アーリー、デラウェア…いずれも日本ワインの可能性というよりは、限界という面でした見れないものだった。名前は「肥後六花シリーズ」や「熊本城本丸御殿(赤)」とか「巨峰のしずく エッセンス」。威容を誇る熊本城本丸御殿なら、どれだけ重厚で絢爛かとおもいきや、ほどよいミディアムボディーのコピーが軽快に踊る。

以前の自分であれば、ここで投げ出してしまっていたかもしれないが、今は違う。というのも08年、夏の帯広のオーベルジュで、秋の勝沼のワイナリーで得た確信。そしてその当時、デイリーワイン的に愛好していたメルシャンのジェイ・フィーヌ・メルロー&マスカットベリーAがくれた幸せなテーブル。90年ごろ勝沼を回らせていただいたときから18年を経て、「ここ10年の日本ワインのがんばり、進化は素晴らしい!」と自分のブログに高揚感たっぷりに書いた。

長文だが再録する。
==
びっくりするほど回復した陽光の中、ルミエールさんのラボ的な畑へ。甲州などは買い付けをしているそうだが、プチ・ヴェルドやシュナン・ブラン、さらにはスペイン、イタリアの地品種(たとえばテンプラニーリョやバルベラ、フィアーノ)など野心的なブドウ品種に挑戦し、かつビオの実践においては日本中からラボとしても注目を集めるなど、実に革新的な挑戦をされている。 

野心的と書いたが、社長ご夫妻、若い醸造責任者、スタッフ総じてあたかかくぽかぽかした雰囲気。こういう大人でありたいという気概と余裕と温かさ。 

畑とカーヴを見学後、ゲストハウス兼レストランである、ラ・カシータ。2面を開け放したテラスの向こうにはカベルネ・ソーヴィニヨンの畑。素晴らしいロケーションで3種のワインとブランデー。料理は地の野菜を見事に使った社長夫人(元CA)の手によるもの。特に水菜と沢庵のえぐみが自然なサラダ仕立てと、メインの季節野菜とワインベーコンのラクレットは絶品。 

ワイン3種は、夏の日のサイダーを思わせる透明感とドライな中に儚げな果実実がかわいいスパークリングワイン『ルミエールぺティアン 07』、NZの樽熟シャルドネを思わせブラインドテイスティングなら滅多なことではあたらないはずの『光 甲州 05』、そしてブラッククイーンという超レア品種を使った『イストワール 05』。甲州は意外にもまだ熟成が足りない印象。香り、味、後味のそれぞれのレイヤーがまだそれぞれ立ちっぱなし。融合したらすこいことになりそう。イストワールは素敵な恋をするなら僕の理想の女性…という立ち姿(笑)。お土産でもらってきているので、興味のある方は遊びに来たら振舞いますよ~。 

夏の北海道でも書いたけれど、ここ数年の日本のワインの成長はあまりにも目覚ましい。その理由の一端はこちらの社長にお伺いしたけれど…なるほど。今度どこかの媒体で記事書ければ(機会があれば)。 
==
08年10月、それから5年。もう一度高らかに言わなければならない。やはり日本のワインは素晴らしい歩みを続けている。

この間、素晴らしい日本ワインに出会ってきた。各地で純粋な野心の結実がどんどん広がっている。北海道はあと5年もすれば世界から注目されなければならないワイン産地になるはずだ。それは荒波にさらされるということにもなるが、そこからまた素晴らしい歩みが始まる。だから、センス的似合わない、などの理由で避けることはない。試してみたいという欲求のほうがはるかに上回る。

キリッと冷して、ややゆったりとしたグラスに菊鹿シャルドネを注ぐ。ちょっとあか抜けないボトルデザインからは想像できないクリアで柔らか。心地よい酸と喉をとおったあとのグリーンな世界、後からやってくる、ふわっとすっきりと、の物静かだけれどキラキラとした陽光が緑の葉を通して感じられる余韻。

洗練され過ぎたり、味付けに何重もの工夫を凝らした料理よりも、冬のテーブル、シンプルで少し和の風味のだいこんのポトフが気分。あつあつを冷えたこのワインと。ワインが口の中で少しずつあたたかみを纏いながら、芯の冷涼さを残しながら胃袋まで静かに…。ノンストップ。焦らず急がない、ノンストップ。

洗練されないネーミングやデザイン。でも、そのセンスは、このワインの良さをちゃんとあらわしている。熊本城本丸御殿~シャトーではなくキャッスルだろうけれども~も、六花シリーズのマスカットベリーAも、きっと幸せな時間をくれるやさしさがそこにありそうだ、と思いを馳せる。

熊本に行くチャンスがあれば、見た目はどうも…だけど…の想いを正直に伝えに、ワイナリーに行ってみたい。ありがとうございます、の言葉と共に。