Kaleici, afternoon

アンタルヤの観光名所は旧市街カレイチ。新市街から港へ。急な坂、ゆるやかな坂、断崖の階段。地中海を望む雄大なランドスケープと、小さな観光船がひしめく港に、小さな石畳の路地。プチホテルの中庭のレストランと道に楽しそうに並べられたレストランの席。お土産物屋とふだんの生活が心地よく混在する幸せな迷宮。

視察のオフの土曜日の午後、ホテル近くからノスタルジックトラムという路面電車で15分。この場所に一人で迷い込んでみる。リゾートエリアからのカレイチの入り口であるカレカプス駅で降りる。そこは活気あふれる新市街と、旧市街のはざま。お洒落なスポーツアパレルショップや両替店を過ぎると、ケバブやムール貝の屋台市場。鼻孔をくすぐる香ばしさとBGMレベルで心地よい客引きの声を、少しだけ足を速めてすぎると、もう、幸せな迷宮に入ったことを知らせてくれる石畳に入る。ただのお土産物屋の観光化された場所、という少し斜に構えながらその坂を下りていくと…。

そこは、僕の旅の体験でいえば、シドニーにも似た明るさと、シチリアの裏通りの可愛らしい猥雑さがあった。素直で人懐っこい笑顔、静かな時間、裏通りの日蔭と海が見える坂の太陽。自由闊達だけれども密やか。露店の兄さん、おじさんたちと会話をしているうちに、自分の頭の中にあった地図はとっくに失って、ただただ、迷い込むことを楽しんだ(この日の夜、メンバーで集まっての夕食にちょうど良いレストランを探すという目的はあったけれど)。

そして港に降りる断崖の上のレストランから地中海を眺める。もちろんチョイスしたのはトルコの白ワイン。少しだけここまでのアンタルヤでの仕事を振り返り、ノートにペンを泳がせる。そして港に降りる。堤防の突端から太陽が西に傾き始めた地中海を眺める。港に振りかえれば雰囲気のよさそうなレストラン。陽気なマネジャー(ビリー・ジョエルのライヴと音楽を長く支えるサックスプレイヤーのマーカス・リベラとジョージ・クルーニーを足して2で割って…という自分の脳内だけで理解できるルックスを思い浮かべる)は、親切にもキッチンの中にまで案内してくれる。

「キレイなキッチンでしょ? トイレもこのあたりでは一番クリーンにしているつもり。夕方からは寒くなるからガラスは閉められるよ。でも景色は最高なままだよ!」
来るとしたら、もしかしたら、もしかしたら、と何度もエクスキューズ。それを満面の笑顔と少し早口の英語で受けとめ名刺に携帯番号を書く(僕の中ではあくまでも)マーク&ジョージなマネジャーと握手をして、ゆっくりとゆっくりと、メンバーたちとの待ち合わせ場所である、カレカプス駅に戻っていく。坂を登っていくと、次第に、心地よい喧噪が戻ってきた。