Kaleici, full moon eve

その土曜日は、満月前夜だった。午後の散策を終え、16時45分、メンバーと、カレイチの待ち合わせの定番スポット、カレカプス駅近くの時計台の前で待ち合わせる。地元の人たちもここのベンチやフェンスに腰掛け10分、15分と会話をすると(もちろん内容は分からない)、連れだってどこかへ向かう。渋谷のハチ公前の土曜日、というほどの密集ではないけれど、心地よい雑踏。太極旗の小旗をもったツアーガイドに引き連れられ、15人ぐらいの韓国人の観光客がやってくる。土曜日の間、日本人とは3人ほどすれ違った。「30分後にここで集合です」かろうじて理解できる程度の韓国語。なぜアンタルヤを選んだのか、慌ただしいツアーのようだけれど、彼らはここでどんな思い出を持ち帰るのだろう。メンバーと落ち合って、マーカス×ジョージなマネジャー(前のブログ参照)のポートサイドレストランに向かう。港に降りた17時30分は、もう、みちる寸前の月が濃いブルーに浮かぶ。

その店でたっぷりの野菜、素朴なシーフードを、地元のビールとワインで愉快な時間を過ごす。オフシーズンのリゾート地、次第に地中海からの風が冷えてくると、港に面したガラスが閉じられ、波音や港の音から、自分たちのカトラリーの音と会話とワインが注がれる音に変わってくる。豊かな食、豊かな風景は、豊かな時間と笑顔をくれる。愚痴など、そこにはない。旅の疲れがむしろ心地よい。

20時を過ぎて土曜のカレイチに戻る。午後の日差しと日陰と優しい空気から一変、いぶしたゴールドのような灯りと、若者たちの陽気な歌声と、マイナー調のロックサウンドがバーから漏れてくる。でも喧噪ではない。歌舞伎町や渋谷や新橋ではない。不思議な浮遊感。石畳を歩く自分たちの足音(お酒で乱れている)はしっかり、聞こえるが、その音もどこか浮遊している。心地よい室内楽が街にじんわりと滲んでいる感覚だろうか。
1軒目は、普段では選ばないであろう店。露店に毛が生えたような中庭の店。ラク(トルコのブランデー)が止まらない。やはりその地の酒はその地の空気の中がいい。会話は酔っ払いの特徴、話題がループし始める。エレクトロロックのトラックのように、それは心地よい。メンバーの一人がiPhoneをいじっていると、店の3代目(と言っていたような気がする)の若者が笑顔で一言。
「ここwi-fi繋がりますよ!」
土の中庭、露店の中庭。ホテルよりもサクサクと動くwi-fi。なんとなくのリアルなアンタルヤの暮らし。

フットボールの話とアメリカとイギリスの音楽の話は、どこにいっても共通言語だ。お店の兄ちゃんとも、客の兄ちゃんとも仲良くなれる。姉ちゃんと仲良くなるためにはもう少し話題が必要かもしれないけれど、エフェスとラクで酔っ払ったループ野郎が求めているのは地元に兄ちゃんとの熱い語りだったりする。それも旅の入り口。3軒目は階段を少し降りたところに中庭が広がる店。ここでもラクを煽る。時計を見ることもなく、満月前夜の月を見上げながら、カレカプス駅の近くまで再び坂を上がる。いぶしたゴールドの街。トルコで三日月を見たかったが、満月もまた美しい。

翌日の夜。満月。再びカレイチを歩く。シルバーに輝く満月。土曜日の活気が幻だったかのように、この日は自分の靴音だけが響く。日曜日の夜は、これでいい、と思う。便利すぎる日曜日となにもない日曜日。どちらが豊かなんだろう。シャンパーニュ地方の村でステイした日曜日にも感じたこと。日曜日の夜は、静かでいい。だから土曜の夜が物語になる。
saturdaynight all right fightingの土曜から、日曜日のI Guess that's why they call it the bluceへ。旧市街からタクシーで地中海沿いをホテルに戻る深夜0時に、エルトン・ジョンのピアノが響いた。