New discovery my top10 wine in 2013

2013年、新たに出会ったワインはざっと1500種。プラコップにちょっとだけ注がれたものからボトル1本開けてしまったものまであるので、おそらくフルボトル換算でいけば150本分程度、ということになるだろうか。そのほかすでに出会ったもののお気に入りの再飲(たとえばニュージーランドはマルボロのホワイトヘヴンや、シャトー・ダングレスなどは何本開けただろうか…)や、ビール、日本酒、焼酎、ホッピーにハードリカーなどなど。今年も丈夫な肝臓と腎臓を分けてくれた親には感謝(微笑)。
さて、今年のトップ10ワイン。昨年はデイリーレンジ(3000円以下)の心地よいワインという基準だったが、2013年は、まず価格の上限を取っ払った。とはいえあくまでも「今の自分を幸せにしてくれる」範囲でのコストパフォーマンスは重視。今回2万円代のものもあるが、あまり芸術性だとかは重視していない。基準は、「そのワインで、自分の時間、集った人が幸せになること。そして、生産者やその土地に想いを馳せて、ちょっぴり感動できる。そして、もう一度飲みたいと思える余韻と財布」。
今年のトップ10ワインのタイトルは、「新発見」。日本語としては「まだ未定」的な、発見なんだから「新」はおかしいだろう、というところなのだけれど、「新しい気づきを与えてくれたワイン」という気持ちを込めた。それは見知らぬ国やエリアだったり、ワインの楽しみ方だったり、組み合わせだったり、それぞれ今回選出したワインには幸せな発見と、今までの自分のワインの常識に対する強烈で優しい方向転換もあった。
それは愛好家、メディアという目線に加えて、1月~6月まで南青山の金曜限定ワインバー店長という経験と、7月からの白金高輪14のワイン会運営という2つの体験がもたらしたものだっただろう。人が幸せになって、笑顔で、でもときに神妙な語り口で生産者やその国の文化を語る。ワインにお金を払うっていうのはどういうことなのか、そのワインで幸せになることってなんなのだろうか、という気づきと発見があった1年だったように思う。
そこで、あえて、ワインにとって重要なヴィンテージの違い、という評価軸ははずしてみた。例えば素晴らしきベル エポック06、ウニコ69などの作品も、はずすことにした。最高のワイン10ではなく、僕にとっての新しい気づきをさせてくれた、今年出会ったワイン10ということになる。必然的に既存の著名産地よりもエキゾチックな産地が多くなるが、これも、ある意味、僕と2013年のワインとの関係を表したものといえるだろう。とここまでワイン10と書いたが、どうしても絞り切れず、シャンパーニュ/スパークリングは別に5本を選出(別記事にて)。ここではスティルワイン10本を選出した。
自分を振り返るとともに、ご覧いただいた皆さんにもぜひ試していただきたい10本です。
(記載順に特に意図はなく順位というわけではありません)


ハート&ハンズ
バレル・リザーブ ピノ・ノワール 2010
》ニューヨーク州ワインの洗礼でありその深みにはまるための通過儀礼的、いや門番的アイテム。ピノ・ノワールの常識を疑いたくなる凄みを纏った静かなるヴァイオレンス。美しさとその中で燃え盛る欲望がもたらす心をかき乱す余韻。アメリカ文学、ポール・サイモンのダークサイドなリリックとサウンドに、ブルース・スプリングスティーンのリヴァーが聞こえながらも、どこまでもジョージ・ウィンストンのピアノの調べ。混乱が快感に変わる。

シルヴァン・ロワシェ
ムルソー 08
》ブルゴーニュのブライトスター。ロックミュージックで言えばowl cityの儚い、爽やかさ。内省と社交性、頑固と寛容、その相反する要素が、静かに優しく溶け込んだ、ふくよかで後味がきれいで、どこかキラキラ感があって、それでもしっかり芯がある。濃すぎるムルソー、重すぎるムルソーから、ローファイでシンプルなムルソーも、悪くない。美男子ムルソー。

ドメーヌ・キンツレー
リースリング グラン・クリュ ガイツベルグ 09
》アルザスの土地の複雑さを改めて思い知らせれた静かなる刺客。震えるぐらいにピュア。ドライではなくクリーン。柔らかい柔らかいピアノ線。畑のほとんどが斜面で、手作りという選択肢しかない状況の中、若木古木、異なる土壌などのミクスチャーなどありったけの「こうあるべき」を注ぎ込む。そこから生まれる、アルザスのリースリングという誇りと凄みと、自然さ。作り手の優しいルックスからは想像できない、凛。

フレッド・マイヤー
リースリング テラッセン 2011
》オーストリアの首都ウィーンから西北西へ70km。ランゲンロイスという街。そこから生まれるリースリングは決して素朴で素直なものではなく、エレガント。しかも、骨太。ジョージ・クルーニーがボタン2つ外して大ぶりなグラスで煽る。そして女性にウィンク。チャーミングさと男臭さ、キラキラなふくよかさと、男らしいスーツが同居するモダンで社交的なリースリング。キンツレーとは真逆の世界観にリースリングの凄みを感じる。夜、都会で。

KEO
アフロディーテ
》キプロスの地品種ジニステリ。初めての出会いはまさに女神との謁見。しかしこの女神は、薄着。でも清潔。太陽と青い空と青い地中海、そして白い壁と白い雲。素朴ではつらつ。しかし女神の高潔と純潔。明るく静かな余韻がどこまでも爽やかに広がる。しばらくして感じるのは、素朴で高潔だからこそにじみ出る官能。平たい言葉で言えば十分に「エロい」。熱い太陽がもたらしたエネルギーが爽やかな青と白の中に確かに、躍動している。ジャケットも秀逸。

ドメーヌTourelles
ロゼ 12
》レバノンの伝統的ワイナリーのロゼ。シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、テンプラニーニーリョ、サンソー。レバノンワインについては当コラムでも紹介したが、やはりこのワインも口当たりの優しさと深みと優しい幸せなボリューム感がある。ほのかな酸味がドライというよりも、自然な柑橘系のフレッシュさをもたらしてくれる。華やかな白いテーブルクロスではなく、家族や仲間、親友、旧友との休日の午後に。

パスカル・トソ
マルベック 10
》アルゼンチン、メンドーサ。ここから生まれるマルベックは、フランス南西部のそれとは異なる世界。そして、主要赤ワイン品種に寄り添いながらも何かが違う。違う何かは、やはりアンデスの空気と日差しと雪解けがもたらすグリーンでクリーンでほっこりする世界なのか。飲み疲れをしない、アタックはきつすぎない、でも、グラス一杯ごとに確かな重厚感がある。何本も飲めない、と言いながら2本飲んでしまう、魔力。メンドーサ、今年改めて恋に落ちたテロワール。

デンビーズ・ワイン・エステート
ローズヒル ロゼ 2010
》ワインの常識で言えば英国はマーケットであり生産地ではない。その常識を軽やかにあざ笑うかのような、見事な売れ線ワイン。なるほど目利き、ワイン商の国、英国だからこそ到達した、ロゼのメインストリーム。批判しようにも批判のしっぽをつかませない、UKロックよりもUKポップスの系譜。問答無用にテイクザットであり、ワンダイレクション。つまらない、も確信犯。そのポップスの凄みを感じたら、抜けられない。可愛らしく、飲みやすく、華やかで、嫌なところが見つからない。ロゼってこういうことだよね?はい、その通りです。

ジェラール・ベルトラン
カリニャン ヴィエイユヴィーニュ
》良く知った、良く普段から飲むラングドックの人気ワイナリー。キャラクターも良くわかっているし、もう、ここにそれほどの発見があるとは思わなかったのだが…カリニャン100、しかも古木。作る意味があるとは全く思えないワインが…化けた。カリニャン、ごめんなさい。ラングドックの古木、ふーん←ごめんなさい。大手の生産者だからこその閃きなのか。ヴィエイユヴィーニュの良さをカジュアルに、気軽に楽しめるという、提案。ラングドック、カリニャン、古木。この組み合わせ。痛快、にんまり。

ファヴィア エリクソン ワイングローワーズ
カベルネ・ソーヴィニヨン
》今年、かなりのワインを飲みながら、もしかしたらもっともカベルネ・ソーヴィニヨンを飲まなかった1年だったかもしれない。加齢なのか体力なのか…知らず知らずに避けていたのかもしれないが、そんな1年に、ちょっと待ちなさい、と肩を叩いてくれたのがナパ・ヴァレーだったとは…。ミネラル感、美しい酸が溶け込み、へヴィーだけれども気分までへヴィーにさせない。明るくもない暗くもない、飲んだ瞬間は、何も感じない。が、胃袋まで落ちた後に全身に訪れる、「俺、今、ワインを飲んでいる!」という実感。へヴィーだけれど浮き立つ。ロックミュージック必須。レッチリのミドルグルーヴと、REMの乾いたせつなさ。交互に聞きながら目を閉じて、もう1杯。もう2杯。