Japan wines,up-date

熊本の友人から届いた熊本県産のワインを飲んだ。現在、入手困難とのことらしいのだが、失礼ながら熊本がワインの産地であることすら知らなかった時期もある。ワイナリー名はその名も「熊本ワイン株式会社」。こちらの「菊鹿シャルドネ」が評判が高いという噂は聞いており、飲んでみたいな、と思っていたところの嬉しい贈り物だった。

しかし、同封されたリーフレットを見ると、そのネーミング、品種、ボトルデザインともに、正直に言えば僕とは違う方向のセンスというか…一時代前の観光お土産葡萄酒そのもの、と感じた。自分では買わないだろうなあ、という印象。ぶどう品種で言えばナイアガラ、キャンベル・アーリー、デラウェア…いずれも日本ワインの可能性というよりは、限界という面でした見れないものだった。名前は「肥後六花シリーズ」や「熊本城本丸御殿(赤)」とか「巨峰のしずく エッセンス」。威容を誇る熊本城本丸御殿なら、どれだけ重厚で絢爛かとおもいきや、ほどよいミディアムボディーのコピーが軽快に踊る。

以前の自分であれば、ここで投げ出してしまっていたかもしれないが、今は違う。というのも08年、夏の帯広のオーベルジュで、秋の勝沼のワイナリーで得た確信。そしてその当時、デイリーワイン的に愛好していたメルシャンのジェイ・フィーヌ・メルロー&マスカットベリーAがくれた幸せなテーブル。90年ごろ勝沼を回らせていただいたときから18年を経て、「ここ10年の日本ワインのがんばり、進化は素晴らしい!」と自分のブログに高揚感たっぷりに書いた。

長文だが再録する。
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びっくりするほど回復した陽光の中、ルミエールさんのラボ的な畑へ。甲州などは買い付けをしているそうだが、プチ・ヴェルドやシュナン・ブラン、さらにはスペイン、イタリアの地品種(たとえばテンプラニーリョやバルベラ、フィアーノ)など野心的なブドウ品種に挑戦し、かつビオの実践においては日本中からラボとしても注目を集めるなど、実に革新的な挑戦をされている。 

野心的と書いたが、社長ご夫妻、若い醸造責任者、スタッフ総じてあたかかくぽかぽかした雰囲気。こういう大人でありたいという気概と余裕と温かさ。 

畑とカーヴを見学後、ゲストハウス兼レストランである、ラ・カシータ。2面を開け放したテラスの向こうにはカベルネ・ソーヴィニヨンの畑。素晴らしいロケーションで3種のワインとブランデー。料理は地の野菜を見事に使った社長夫人(元CA)の手によるもの。特に水菜と沢庵のえぐみが自然なサラダ仕立てと、メインの季節野菜とワインベーコンのラクレットは絶品。 

ワイン3種は、夏の日のサイダーを思わせる透明感とドライな中に儚げな果実実がかわいいスパークリングワイン『ルミエールぺティアン 07』、NZの樽熟シャルドネを思わせブラインドテイスティングなら滅多なことではあたらないはずの『光 甲州 05』、そしてブラッククイーンという超レア品種を使った『イストワール 05』。甲州は意外にもまだ熟成が足りない印象。香り、味、後味のそれぞれのレイヤーがまだそれぞれ立ちっぱなし。融合したらすこいことになりそう。イストワールは素敵な恋をするなら僕の理想の女性…という立ち姿(笑)。お土産でもらってきているので、興味のある方は遊びに来たら振舞いますよ~。 

夏の北海道でも書いたけれど、ここ数年の日本のワインの成長はあまりにも目覚ましい。その理由の一端はこちらの社長にお伺いしたけれど…なるほど。今度どこかの媒体で記事書ければ(機会があれば)。 
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08年10月、それから5年。もう一度高らかに言わなければならない。やはり日本のワインは素晴らしい歩みを続けている。

この間、素晴らしい日本ワインに出会ってきた。各地で純粋な野心の結実がどんどん広がっている。北海道はあと5年もすれば世界から注目されなければならないワイン産地になるはずだ。それは荒波にさらされるということにもなるが、そこからまた素晴らしい歩みが始まる。だから、センス的似合わない、などの理由で避けることはない。試してみたいという欲求のほうがはるかに上回る。

キリッと冷して、ややゆったりとしたグラスに菊鹿シャルドネを注ぐ。ちょっとあか抜けないボトルデザインからは想像できないクリアで柔らか。心地よい酸と喉をとおったあとのグリーンな世界、後からやってくる、ふわっとすっきりと、の物静かだけれどキラキラとした陽光が緑の葉を通して感じられる余韻。

洗練され過ぎたり、味付けに何重もの工夫を凝らした料理よりも、冬のテーブル、シンプルで少し和の風味のだいこんのポトフが気分。あつあつを冷えたこのワインと。ワインが口の中で少しずつあたたかみを纏いながら、芯の冷涼さを残しながら胃袋まで静かに…。ノンストップ。焦らず急がない、ノンストップ。

洗練されないネーミングやデザイン。でも、そのセンスは、このワインの良さをちゃんとあらわしている。熊本城本丸御殿~シャトーではなくキャッスルだろうけれども~も、六花シリーズのマスカットベリーAも、きっと幸せな時間をくれるやさしさがそこにありそうだ、と思いを馳せる。

熊本に行くチャンスがあれば、見た目はどうも…だけど…の想いを正直に伝えに、ワイナリーに行ってみたい。ありがとうございます、の言葉と共に。