The new Bordeaux, "smile every day"

ボルドーの凄み。それは決して1本3万、4万、20万、100万円というワインにだけ与えられるものではない。2000円代にも、その凄みがあった。その凄みは「easy to drinkなボルドー」というおよそ凄みとは真反対のところにあった。飲みやすい、実に飲みやすい。でもそれは単に「水みたい」「フレッシュ」という意味ではなく、複雑でひっかかりがあって、一瞬その複雑さを探るために底の方まで引き込まれそうになるんだけれど、途中ではっと気がつく。そういうのどうでもいいんじゃやないか?いや、それがどうでもよくはないんだけど、やっぱりどうでもよくなるという。ひっかかりがむしろ心地よくなって、最終的にはどこかに連れて行かれている…そんな心地よい堂々巡りからの心地よい結論。

ワインの名前は「CAP ROYAL」(キャップ・ロワイヤル)。仕掛けたのは、メドック格付け第二級、ピション・ロングヴィル・バロン。フランスの保険会社であるアクサグループの傘下となり、その好影響もあって再び評価を高めた名門の仕掛けは「低価格・高品質」という挑戦。

もちろん、「低価格・高品質」のワインは世界中にたくさんある。むしろこのブログで紹介しているワインのほとんどは「低価格・高品質」というカテゴリーだと思う。南半球から中近東、もちろんスペイン、イタリアなど欧州、当然、南仏、南西はその宝庫。ここにボルドーというワードがひっかってくる。いや、もちろんすでにバリュー・ボルドーという展開はあって~僕自身もこの3000円前後のボルドーワインの紹介という仕事をしたこともある~安うまボルドーは存在し続けていた。シャトー・ラグランジュのサードや、シャトー・モンローズのサンテステフ・ド・モンローズなんていうのは、僕の中では歴代「低価格・高品質」ワインの代表格。
ところが今回名門が繰り出したのは2000円前後の新コンセプト、新ブランド。大丈夫かな、本当に?と言うのが最初に話を聞いたときの正直な感想だった。

ところが、この2000円代が、美味い。白赤2種の展開だが、特に驚いたのは白。旨いというより美味い、か。90%のソーヴィニヨン・ブランの爽やかさと品の良さに、セミヨンが程よい大人の可愛らしさを添える。そっと手をつなぎながらも絆は深く一体化。ブドウの質はもちろんなんだろうけれど、このブレンドテクニック、テクニックというか…よくこういう品のいい御嬢さんを育てたな、というジャン=ルネ・マティニヨンさん(写真左)の、スキルと経験を深く、深く感じる。1987年から名門のテクニカル・ディレクター。そのプライドと匠が楽しく表現され、飲む方の気持ちまでふわっとさせてくれる。
同行した販売会社の輸出部長のジェローム・ピレさん(写真右)にいつもの質問をした。
「どんなオケージョンで飲むのがおススメですか?」
「毎日ですよ!毎日!(ニッコリ)そのために作ったんですから」
マティニヨンさんもうなづきながら
「夏のテラスなんて最高だよ。うん、夏、毎日。いいねえ」。
名門を背負った男とは思えないチャーミングで幸せな「軽はずみ」な言葉。ピレさんが続ける。
「あ、でも朝はダメですね。しごとにならなくなっちゃう(笑)」
ボルドーにしてこの明るさ、ボルドーだからこその気品。
いわゆる恋におちられる系のワイン。グレープフルーツ、ピーチの鮮やかな甘みと酸味にクリームタイプチーズの柔らかい部分のクリーミーな感覚。毎日微笑むことができる白。

赤も同様の世界観ながら、この日合わせてテイスティングした、ピション・ロングヴィル・バロンの05とやはり共通の世界観がある。しみじみ飲みやすい。白ほどのインパクトはなかったが、逆に飲みづかれしないけれど飲みごたえは感じられるデイリーレンジボルドーという楽しみはありそうだ。

こちらのワイン。まずは日本のみの限定展開で、その様子を見て順次世界展開をしていくとのこと。
ピレさん「まず、日本の洗練された方々に試していただくことは、私たちにとっても、とても喜ばしいことです」。
この名門を口説き落とした株式会社アルカンから展開開始。酒屋さん、百貨店、飲食店で見かけたら、「今、飲めるのは日本だけみたい」というちょっと、鼻を高くして、リラックスして楽しんでみてください。