G.H.MUMM elegant, however, cheerful

G.H.MUMMのエキスパート・レンジという新しいラインが登場した。ブラン・ド・ブラン、ブラン・ド・ノワール、ブリュット・セレクションの3アイテムの総称。本国フランスでは2011年にすでにローンチされているが、フランス以外でこの3アイテムが同時に展開されているのは日本だけだ。ブラン・ド・ブランについてはすでに日本で展開されており今回の2アイテムで、いよいよ揃い踏みだ。
この件についての最高醸造責任者ディディエ・マリオッティ氏の詳しいインタビューは3月中旬にはシュワリスタ・ラウンジにて掲載予定なのでそちらを見ていただくとして、ここでは、2月13日のディナーでの歓談、14日のインタビューでの余談の中で印象に残ったことなどを書いていこう。

ディディエさんとお話しするのはこれが通算4回目。そこでいつも彼が強調するのは、どのアイテムであっても「飲み続けられるシャンパーニュであること」だ。この飲み続けられるというのは、いつでも期待に応えられる品質を維持するということよりも、飲まれる方がその日、その夜、その時に飲み続けたいと思うこと、という意味が強い。例えば今回のエキスパート・レンジ。ブリュット・セレクションについていえば、5つの名高きグラン・クリュ~アヴィーズ、クラマン、アイ、ブジー、ヴェルズネイのアッサンブラージュだ。複雑で重厚なものを造ろうとおもえばいくらでも造れたのかもしれないが、彼の選択は、「飲み続けられること」。複雑さとエレガントな軽快さの両立が、このワインの到達点というディディエさんの狙い通りの仕上がり。「複雑さについていえば、ワインのエキスパートたちがテイスティングの場で感じてもらえればいい。普段登場する場面ではとにかく楽しくなってもらえればいい」。

引き合いに出したエピソードは…これはシュワリスタ・ラウンジでの記事をお楽しみに。

ブラン・ド・ノワールに関しても、個性が強すぎるということで醸造チームの中でも賛否両論あったという2002年のヴェルズネイを、10年間の歳月(うち6年が熟成期間)を「かなり辛抱して造った」という経過を経ての登場。これもヴェルズネイのピノ・ノワール全開!圧倒的なパワーがあふれ出す!的なワインになってもよいものを、「フルーツの圧倒的なパワーをトゥマッチにしない」ことに注力し、静かな世界観の中からじわじわと魅力を醸し出して、長く、いつまでも飲めるワインにした。僕自身のテイスティングコメントのタイトルは、「静寂の中のスペクタクル劇」なんてものにしたけれど、確かに彼がいうところの「暖炉の前で旧友同士で人生についての議論を戦わせる。ゆっくりと時間をかけて」というシーンが思い浮かぶ。

考えてみれば最初のインタビューから、ロゼも、コルドン ルージュも、ディディエさんは一貫して、ポジティヴな場面、ポジティヴなエネルギーで、とにかく飲み続けられるワインを造りたいという意思を発散していた。G.H.マムが勝利の瞬間に分かち合うシャンパーニュ(F1のポディウムはその象徴だ)であることを、醸造責任者は常に考え、体現している。「明日の心配は明日考える。皆さんに幸せになっていただくアイテムを造っているんだから自分がポジティヴじゃないとね」と微笑む。

「シンプルに考えるということはとてもポジティヴ。でも、それが難しい」。ふとディナー中にもらした一言は、この日のディナーの場であった『エスキス』の料理に対する賛辞ではあったけれど、きっと、それはディディエさん自身が毎日感じている苦悩の吐露だったのかもしれない。コルシカ出身ということがどこまで彼の発想に影響を与えているのかはわからないけれど、それでもなお、明るく幸せで飲み疲れないという気高くエレガントなシャンパーニュを造り続ける、その変わらぬアティチュードに、共感してしまう。尊敬すべきワインメーカーであると同時に、ディディエさんは僕にとってはその姿勢を共感できる尊敬できるクリエイターなのだ。

エキスパート・レンジは決して(財布という点含めて)入手しやすいシャンパーニュではないが、ポジティヴなエネルギーを体の隅々にまで行きわたらせてなおエレガントなシャンパーニュらしい幸せを体感できるアイテムであることは間違いない。世界最高峰の合法的な媚薬がベル エポック ロゼだったり、ドン ぺリニヨン エノテークなら、こちらは世界最高レベルのエレガントなエナジードリンク。ディディエさんとグラスを傾けながら話す時間は、自分の明日へのエネルギーチャージ。とにかく気に入ってしまったブラン・ド・ノワールを飲む時間も、おそらく同じことになるのだろう。