Never Mind the Bollocks

ニューヨークシティのワイン業界の異端児であり、最も幸せな影響力を与えているのではないかといわれる、ポール・グレコ。同じように静かなら情熱を持ってリースリングを広める活動されている「リースリング・リンク」さんの尽力で今回来日して…というお話は、僕が担当したWEBダ・カーポでのインタビュー記事を参照いただくとして、今回はその裏話。
本編はこちら。ぜひ、こちらもご一読ください。

NYのソムリエ、ポール・グレコ氏インタビュー

ワイン界の反逆児はリースリングで世界を変える夢を見る。

で、裏話。
リースリング・リンク本番前日、ポールさんの東京での1日に密着させていただき、人となりを知った上での公式インタビューという実に楽しいミッション(ということでインタビュー本編では公式インタビューの話だけではなくその1日の中でのボソッと言った言葉なんかも織り交ざってます)。
まあ、ポールさんは、朝からよくしゃべる。元気。ジェットラグ?なんだそれ?みたいな感じ。よくしゃべるが、その大半は、東京のあれこれや一緒にいる僕たちのあれこれを引っ張り出す質問、そしてそこからの広がり。あれはなんだ?これはなんだ?本編に、ソムリエは人の話を聞いて会話しなければいけないんだ的なことが書いてあるけれど、ポール式聞き上手は、聞くためにしゃべる人の倍以上しゃべるってこと。これ、誰かに似てるなあー、あ、俺だw

で、その中でとても印象に残っているのが、ワインをおススメするってどういうことだろうね、という話。例えば…ということでこんな質問をしてみた。
「(リースリングという通常のイメージであれば繊細なワインだが)ゲストが、今日はメタリカのライヴを見て、まだ興奮中でここに来た。なんかおススメくれよ! なんていったとしたらどうします?」
ロックとリースリングを組み合わせたイベントの仕掛けもやっているし、彼が提唱するサマー・オブ・リースリングのTシャツもパンクロックテイストだ。聞いても大丈夫だろうと(でも恐る恐る)聞いてみた。

「それは簡単な質問だ。ドイツ、グランクリュ、切れ味のいい、高音を感じさせるいいーリースリングがあるんだよ」
さらり。そしてにんまり。どうやらその状況を思い浮かべて、そのリースリングの味を思い浮かべて、実に幸せそう。するとこの日、あえてチャレンジで着てきたデフ・レパードのツアーTシャツを指さしてポールさんは言う。
「で、キミがデフ・レパードのライブ帰りだとしよう。それならメタリカよりはもう少し甘め、もちろん(ヴォーカルのジョー・エリオットやフィル・コリンのシャープなギターにあわせて凛としていなければならないが…的なバックグラウンドをどうやらこめながら)シュガーテイストがあって広がりがあるようなリースリングがいい。これもドイツだね」
なるほど。まさに彼らのヒット曲「Pour Some Sugar On Me」ですね!の切り返しはスルーされたものの(苦笑)、ポールさんはご満悦。

すると、今回のポール来日に尽力されたコーディネーターの(おそらく意外とロック少女時代が長かった)Kさんが乗ってくる。
「じゃあ、ピンク・フロイドは?」
難問。ポールさんしばし考え込む。と思ったら考え込んでいるのではなく
「いやーいい質問だねえ」
と、どうやらピンク・フロイドの自分の好きな曲を思い浮かべて浸っていたよう。
「豚が飛んでた。頭の中で(笑)」

この質問にもピンク・フロイドのプログレッシヴ・ロックらしい曲調を説明しながらオーストリアのリースリングの名前をあげる。これは本編でも書いたけれど、なるほど、リスト見るよりも会話したほうがずっと楽しい。最後に…と僕の質問は
「じゃあ、グレイトフルデッドはどうです?」
するとポール。
「そいつはシャルドネだ!俺に聞くなよ!(笑)」
リースリングの伝道師としての来日だけに、そこは譲らない。面白い!楽しい!

こんな会話(ファッション、ジョブズ、携帯電話社会、日本人の宗教観、プロスポーツ、日本の食文化)が1日中、早朝の築地から深夜の麻布十番のワインバーまで続く。その中ではリースリング以外の素晴らしいワインについて語り合う時間もあった。夜の鮨屋ではニューヨーク州から日本のシャルドネ、僕が持参した南仏×ボルドーな白、麻布十番ではソムリエさんとポールさんのちょっとした悪戯心のブラインドテイスティング(正解はロワールの赤・シノンだった)もあった。最近、日本のワイン業界に困惑を巻き起こしているマスター・オブ・ワインの件についての議論もあった。実に濃厚な1日…。

翌日のイベント本番でも精力的に試飲を繰り返し、熱心にゲストたちとトークを繰り返し、そしてその翌日、元気なまま大阪へ向かったポールさん。そのパワーの源は、元々のもののもあるのだろうけれど、ワインを通して、幸せなリンクを作ってきた、その体験があるからなのかな、とも思う。自分の好きなものをワインに関連付けて、ぶち込んで、それで人を幸せにする。ポールさんの粋には全く達していないけれど、なんとなく、これ、僕が目指してやってきたことなのかも…とちょっとした爽快感、うれしさ。ホスピタリティ産業と自らいう、お店経営、ソムリエという立場でのポールさんと、自分の立ち位置は全く違うけれど、でもちゃんと周囲を見れば、メディアでもホスピタリティ産業でも、インポーターでも、もちろん生産者でも、そしてそれを楽しむ人々でも、そうやってワインを楽しめる人ってたくさんいるじゃないか!と思う。

インタビュー本編でポールさんに語ってもらったように、ワインごときでデートで恥をかくことなんてない!人様から嘲笑される筋合いなんてない!生産者からその日のゲストまで、どうやって幸せを紡いでいくか。
そう、これってワインだけの話じゃない。ワインだけがお高くとまることなんてない。おもちゃも工芸品もプロスポーツも本も、なにもかも一緒。もっとワインを楽しもう。それぞれの出来る立場で。だから、僕にも僕の立場だからできることはあるだろう。ワインをもっと楽しくしよう。それがポールさんから勝手に受け取ったメッセージ。