クラシックを軽やかに

G.H.MUMM X ウェスティンホテル東京「ビクターズ」のコラボディナー。毎月、さまざまなシャンパーニュメゾンとの共催で行われている人気イベント、とは聞いていたが、この日のディナーで、その理由を存分に「味わった」。

ビクターズのフレンチは、一言で表すならば「クラシック」ということになるだろう。空間にしてもサービスにしても、もちろん料理にしても、クラシックであることは間違いない。でも、フレンチのクラシックという言葉にともすれば伴う、重苦しさはそこにはない。クラシックだが軽快。

 

蒸し暑い東京の夜。王道フレンチに王道ボルドー、そんな組み合わせは敬遠しがち。ご案内を受けた時には、正直、この時期に王道フレンチか…重いかな、とも思っていた。

 

救いはシャンパーニュ。MUMMの持つ、明るさ、健やかなエレガントさに、軽やかな色気。それなら重厚さもやわらぐかな、という期待。しかも、この日のラインアップは、ブランドアンバサダーであるアントニーさんの素敵なサマーギフトともいえるもの。『ミレジメ 2004』は、おそらく王道フレンチとの組み合わせを軽すぎず、重すぎず、きっと、大人の世界で彩ってくれるだろうし、『ルネ・ラルー 99』が味わえる、という喜びは、王道への多少の遠慮を忘れさせてくれる魅力的なインビテーションだった。

ところが、最初の一皿を口に入れた瞬間から、MUMMとビクターズのコラボの理由をはっきりと、喜びと共に理解した。そして、それは次第に共感へと変わっていく。

『シーフードとトマトの冷製スープ バジルクリーム』の健やかで明るいトマトの酸味が、重いクリームを感じさせないバジルの爽快感と軽やかな握手。これが『コルドンルージュ』の重さではなく高揚感の部分と一緒に楽しむと、広がるのは、夏の高原のテラス。ジャケットの肩のあたりがすーっと軽くなるのがわかる。

メニュー名だけみれば、その後も、重いクラシックの連続だ。前菜から『和牛のシールドのサラダ』魚は『シーバスのグリル』で、メインは『リー・ド・ヴォー』と『フォワグラ』の組み合わせと、これでもかのクラシック。だが、軽快。もちろん、シャンパーニュとの組み合わせは、その一因だろう。ロゼ、ミレジム、ルネ・ラルーと続くMUMMの世界がそこにあることで料理もエレガントに弾ける。しかし、いくらMUMMでも重厚すぎる料理ではその存在を中途半端なものにされてしまう。この日の料理は、クラシックだが軽やか。

 

クラシックと軽やかという言葉は決して相反するものではなく、夏の日本においては幸せな世界になる。わさびであったり、夏野菜であったり、柑橘であったり、香りと口に入れたときの食感や後味の余韻に、静かな爽やかさをもたらす、足し算、掛け算、引き算ともまた違う、シェフの軽快な計算に思わずほころぶ。ほころぶタイミングでMUMMが、またエレガントに弾ける。

MUMMの最高醸造責任者であるディディエ・マリオッティ氏には、幸運なことに3回のインタビューの場を与えてもらっているが、名門メゾンにあって、彼の感性はどこまでもコルシカ出身らしい明るさを伴っている。明るいといっても底抜けな楽天家でもなければ、常識知らずの風雲児というわけではない。MUMMの長年の伝統にのっとったうえで、自らの軽やかなセンスを取り入れて、MUMMの伝統をさらに長いものにしていくこと。

 

この日のクラシックフレンチも、シェフの、日本人的な解釈や、夏の日のジャケットの肩を軽くしてくれるようなセンスによって、逆に、クラシックの良さを引き立ててくれている。そう、クラシックを軽やかに。受け手もそれでいい。クラシックの新しい楽しさを発見することで、さらにクラシックの奥深い世界に惹かれていく。

MUMM以外にもさまざまなシャンパーニュの名門とのコラボで展開するフレンチディナー。お気に入りのシャンパーニュメゾンのフィロソフィー、世界観を、楽しく感じられる機会になりそうだ。