enjoy a fragrance

ワインの試飲会では、香水を遠慮している。いや、遠慮というよりは禁止。ワインが好きということは、やはり香りが好きで、香りが好きなら、香水も好き。だが、この2つは場面としては両立しない。場面としては両立しないのだけれども、香りで自分を幸せにしてくれたり、浮き立たせたり、励ましてくれたり、ときには、もしかしたら自分は格好いいんじゃないか、なんて勘違いもさせてくれる。もちろんデートの場面なら、相手の香水の香りひとつで勘違いもさせてくれるし、それはオーダーしたワインの香りも一緒だ。官能的でも健康的でも、どちらでもいい。いずれにしてもお気に入りの香りを見つけることは、とてもハッピーな冒険だ。

香水とワイン。その近くと遠くて遠くてちかくあったらいいな、という関係性を実に見事に、実に鮮やかに納得させてくれたのが、『JO MALONE LONDON』のライフスタイル・ダイレクター、デビー・ワイルドさん。

「これがあなたの既成概念の中の心地よい香り。そしてこちらは、あなたのワイルドな面、既成概念にないもの。だからもしかしたら今日は気に入らないかもしれない。だから今日はこの香りの記憶だけを覚えておいてもらえればいいわ。それはね、私がバローロを最初に飲んだときと同じ。あのころ私は、なにこれ?いやだわ、ぜんぜん私にあわないって思ってたの。でも、今は大好きでそればっかり(笑)」

ワイルドさんが考える僕のワイルドな部分ですね、という軽口は軽く受け流されたけれど、香りを巡る冒険にお付き合いいただいた。叙情的ながら知的、知的ながら優しい微笑み。

本日お披露目のミモザ & カルダモンにライム バジル & マンダリンとウッド セージ & シーソルトをその場でコンヴァインしたものをふりかけていただくと、そこに現れたのは、カリブ海のブリティッシュコロニアルガーデンのモーニング&ミッドナイト。鳥のさえずりから虫のコーラスまで。複雑という漢字二文字よりも何かもう少しロマンティックな言葉を捜したいのだけれども。

ボトルに詰まっているのは思い出。
たくさんのメモリーがかぎわけるセンスと能力にかわる
パーソナリティ、オケージョンにあわせて使うことで、新しい経験になる
はじめはシンプルなもの、それから複雑なものへと進むほうがわかりやすい
場面、そこにいる人、食事…そういうものとのハイブリッドで楽しめる

ワインの楽しみと同様の言葉が心地よい。
ある香りに、湿った草の上に贅沢にカベルネフランをを注いだような…そんな例えにも、おもしろいわ!私だったら…そうね…と無邪気にメモリーの引き出しを開けるデビーさん。ライフスタイル・ダイレクターという肩書きに納得。

もちろん、そうだとしても試飲の場所にふりまくことはないけれど、好きな香りと好きな料理と好きなワインと、そして一緒にテーブルにいる人。オケージョンは?場所は?組み合わせはいくらでもある。幸せな香りの冒険。ワインも香水も、大いに楽しもう。

たった12人だけの素敵で特別な会にお呼びいただいたのは、食と美の世界で多彩な活躍をされている沢樹舞さん。料理やワインの仕事のために香水は使わないが、「ジョー・マローンだけは特別」。ブランドの世界を日本で体現する一人。